chapter. 12−3
卓上には各自のワインが入った銀グラスのほか、果物が積まれた金の大きな盆や同じく金の燭台が置かれており、蝋燭が薄暗い空間を照らしている。
大窓から光を取り入れているものの、まだ壁に占める窓の割合を高めることが難しい時代のため、自然光よりあちこちに置かれた無数の燭台の明かりの方が強い。
そんな厳かな空間の静寂を切り裂くのは、まず最初はラウルの役目である。
「さて、じゃあ始めようか。この戦争の落とし前について」
「げ、元凶が何を!」
すると、真っ先にそんな声が飛んできた。アンデシア公だ。まさか王たちを差し置いて声を出すとは、よっぽど頭にきているらしい。宿泊場所も市内の宿泊施設である上に、完全に罪を裁かされるような立ち位置に座らせられていることがご立腹なのだろう。
すぐにルキウスやカストロが殺気を滲ませたが、ラウルが先に答えた。
「貴公の発言はまだ許可していない。口を慎むといい。本来、貴公らはこの場にいることも許されない」
淡々と答えたラウルに、アンデシア公は沈黙する。今度はシャルルやアーサーが少し驚いたようにしているのが気配で分かった。大方、ラウルが非常に冷たい声だったからだろう。
当然だ、ラウルとて、冷静ではあるが頭には来ている。
「ゲルマニア王国、カンパニア公国、アンデシア公国による一方的なロタリンギア王国への侵攻により、ロタリンギア王国だけで5150人が命を落としている。ブリタニアは2150人、新ラバルム帝国が300人、ポルスカ=ルテニア連合王国は1100人、アヴァールは600人。ルシタニアなどを含めた同盟側の死者は9850人にも及ぶ。5日間に渡って東部の街道を封鎖された経済的損失の代償も払ってもらわないといけない」
ゲルマニアは1万1620人が死亡、ガリアの2公国は3200人が犠牲になり、敵側も1万4820人が命を落とした。
2万4670人、それがこの戦争の総犠牲者数である。
「俺はロタリンギア王として、ゲルマニアともガリアとも敵対する意思は示さず、常に対話に応じてきた。事実、ガリア王はだからこそ参戦しなかった。それでもなおロタリンギア王国を脅かすことを愚かにも決断したことが原因で、2万人もの死ななくて良かったはずの兵士たちが犠牲になった。俺は、この講和の結末がなんであれ…それを絶対に許さない」
シグルド、そしてガリアの2公を睨み付けて言えば、シグルドは身を引き締め、公たちは肩を大きく揺らした。
もしも本当に全面衝突になっていれば、10倍以上の犠牲者が出たはずだ。敵味方合わせて22万人が動員されての戦争でこの犠牲者数は少ない方である。
この世界では、魔法によって死者数がラウルの知る歴史の戦争より多くなる傾向にあり、動員された軍の半分以上が犠牲になることもある。今回も、僅か5日間の戦闘でありながら2万人が命を落としているのは、やはり魔法というものの凄まじさを物語る。
ちなみに、この戦争は通常はロタリンギア戦争と呼ばれているようだが、すでに人々の間では五日間戦争とも呼ばれているようだ。魔法があるとはいえ、さすがに戦闘期間が短かったのは確かである。
しかしなんであれ、一人でも死者が出ているのであればラウルは同じ感情になっていた。余計な戦争を引き起こしたゲルマニアとガリアには、責任を取ってもらう必要がある。
アンデシア公たちが黙ったところで、ラウルは本題を続ける。
「…さて。此度の戦争は、あまり明確に勝者がいたわけじゃない。基本的にはロタリンギア大同盟が優勢の状態で停戦したものの、こちらはそもそも国土防衛だけが目的の防衛戦争、ゲルマニア側も戦争の目的を達成できていない。つまり、何かを得た陣営がないわけだ。連合王国とアヴァール王国だって、別にゲルマニア東部領域を支配したいわけじゃない。であれば、まず大同盟側がゲルマニアとアンデシア、カンパニア、および統括責任のガリアに対して要求を行い、どこまで折り合いがつくか議論しようか」
特にゲルマニアとガリアに対して要求があるわけではない同盟諸国だが、そのうえでバランスを取るようにして懲罰的な要求を行い、どこまで両国が許容できるか議論する。
あまり追い詰めるのも得策ではないし、ルートヴィッヒ6世が過激化しないようにこちらも少し譲歩を見せてやる必要がある。
なんであれ、2万の人命と釣り合うようなものでは、本来ない。空しいものだが、これを終えなければ戦争も終わらないし、やり方が下手だと次の戦争の火種になってしまう。