chapter. 12−6
書記官の役を務めてくれているポルクスが今の合意内容を羽ペンで羊皮紙に記載している一方、ラウルはこのあとの進め方について、まず本題を整理してから休憩に入るという流れで行こうと考える。
この休憩というのは文字通りの意味ではない。利害関係国同士での小規模な話し合いを行うということだ。
事前にメティス宮殿の執事長には、この大講堂のほか、周辺区画の12ある応接室すべてを解放し使用人を配置、テラスや廊下の隅に至るまで清掃するよう指示していた。これで、王たちが周辺に散会しても大丈夫だ。
給仕も近くの厨房に配置済みであり、食器も最高級のものをすぐ出せるよう動かしてある。
「よし、じゃあ次は非金銭的な補償だ。基本的には、銀鉱石そのものでの支払いのほか、賠償金額に相当する額の関税免除、指定都市の自由化、その他の資源という3つの方式で充当してもらう。これはロタリンギア王国の商人だけでなく、同盟国の商人にも影響する。ま、いわゆる本番ってわけだ」
ラウルの言葉に、シグルドたちが緊張した面持ちを浮かべる。こうした形で落としどころをつける、というのは事前に取り決めていたが、当然、被害額が定まるまでは規模が分からないため、詳細は詰めていない。
現金での賠償金支払いはガリアもゲルマニアも想定より少し足が出たくらいだろうが、こちらの方が圧倒的に割合としては大きくなっている。
なにせ、非金銭的補償額は5287万8166デナリウス、現金補償の6倍もの額に膨らんでいる。
「ロタリンギアからの要求は次の通り。まずガリア王国は、カンパニア公国、アンデシア公国、ブルグンディア公国、プロウィンキア公国、王領地全域におけるロタリンギア商人の関税免除を向こう10年間。ゲルマニア王国は、アレマニア公国、フランコニア大公国、スウァビア大公国、エムスファリア公国、ヘッシア公国、トレヴァ公国において同様に関税免除を7年間。ガリアはルペッラ市を、ゲルマニアはトレヴァ市を自由化しすべての貿易参入障壁を恒久的に撤廃。最後に、両国は合計15トン前後の銀塊と、ゲルマニアは残る金額分を金、銅、鉄、鉛、錫で支払う」
「な…っ、」
「……、」
「なんだそれは!!」
シグルドとシャルルは息を飲み、カンパニア公は案の定叫ぶ。これはとんでもない要求だが、金額は合致している。昨年1年間に実際に支払った関税額から計算したものであり、ちょうど賠償金に相当する値になっているのだ。
すると、アーサーが口を開く。
「ロタリンギア王、関税免除と自由化は、同盟国にも及ぶのかい?」
「一次的には、同盟国商人は対象外だ。だが、ロタリンギアと同盟国間の貿易における、該当地域での輸送に係る関税は対象になる。ロタリンギアが輸出するものでも、輸入するものでもな」
「なるほど、ロタリンギアに対して適用されるけれど、ロタリンギアとの貿易をしている同盟国にも波及するというわけだね。ならば、できればナネットの関税免除と自由化があるとブリタニアとしてはより良い」
そこに、ルキウスも議論の時間だと理解してニヤリとする。
「おいおい、まずはエトルリア国境の開放が先決だろう。そのうえで周辺の交易都市の自由化なり関税免除なり検討してもらいたいところだなァ」
「…僕はトレヴァよりシュトラーレの方が好ましい」
「お、俺は別に…もうちょい自由にやらせてもらえればいいっす…」
カドック、マンドリカルドも続き、当然こうなるだろうという事前の想定通りの展開になった。
シグルドも、ため息交じりに口を開く。
「…さすがにすべてをそのまま飲むことは難しい。エムスファリアとヘッシアは特に、王室の指示で派兵したのだから納得できんだろう」
「じゃあ都市で絞って年数を増やすか?そうすりゃ、対王室租税を変更して現地負担を実質なくすこともできるだろ」
「……ガリアとの話し合いも必要だ。そちらも、同盟国内での協議が必要だろう」
「その通りだな。よし、じゃあいったん休憩とする。大講堂を出て、中央棟の2階から3階までは自由に使っていい。部屋も使用人も用意してある。飲み物や果物、軽い食事も提供可能だ。今から30分後にもう一度集合してくれ」
いわゆるコーヒーブレイクにあたるものだ。こうした小休憩を何度か挟むことで、根回しや細かい利害調整を行う。現代の国際会議でよく取られる手法だ。