chapter. 12−8
休憩時間も終わり、再び全員が大広間に戻る。立場上、最後に戻る方がよいため、ラウルはギリギリの時間を見計らって大広間に入った。すでに他の王たちは着座している。
「全員いるな。じゃあ、続きから。まずシグルド、そちらの要求は?」
ラウルはまず、シグルドに話を振った。ゲルマニアがどこまで許容できるのかを見定める必要があるからだ。
「やはり、公国全域というのは無理がある、というのがガリアと意見を一致させた部分だ。小規模な取引を含めれば、制度変更が浸透する頃には関税免除期間が終わっている」
「それは一理あるな。じゃあ、都市単位としようか。ただ、そうすると交戦国だけでは足りない。ゲルマニア全土で、対象都市を選出することになる」
「致し方あるまい。ラウルが指摘した通り、王室への租税額を変更することで事実上、現地の負担を減らす。ゼロにはできんがな」
シグルドが指摘したことはその通りだが、ラウルも分かっていてこの要求をした。シグルドも、ラウルがそういう心づもりだと理解しているだろう。
要は、譲歩した演出を入れることで会議を進めていく、ということだ。ほかの王たちからどう見えているか、そこまで考えるのが大国の統治者の務めである。
「あぁ、あともう一つ当方から提案だ。関税免除対象都市の数を多くして、対象期間を減らす方針で検討したい」
「へぇ。ガリアはともかく、御しきれるのか?王室租税を全額免除しても、都市によって関税免除で減る税収の方が上回るだろ」
さらに、シグルドは関税免除期間を短縮する代わりに対象都市を増やす形にしたいと提案してきた。水平方向に賠償を分散させることで痛みを希釈する意図があるのだろう。
こちらとしても、関税免除が慣習となって根付いてしまうと免除期間終了時の混乱が大きくなってしまうため、短期間で終わらせるというのはそこまで悪いことではない。
一方で、ゲルマニア王室がきちんと各都市にそれを徹底できるのか、そこの不信感が残る。特に、この戦争に関わっていない公たちからすれば王室への不満が高まることにもなって反発されてしまう。
「対象を増やすと言っても、ほとんどは交戦した公国に集中させたい。一部、東部にも対象を拡張するが、王権領域で交戦国外の対象都市は絞るつもりだ」
「ま、それに俺が同意できればの話だけどな。とはいえ、その提案は合理的な範疇にある。認めよう。ガリアも同じだな?」
「あぁ。俺も同じ意見だ」
シグルドとシャルルは事前に同意していたため、すぐに確認が取れる。
「じゃあ、まずは関税免除対象都市を決める。そのうえで、足りない分は都市の自由化で。さらに足りない分を鉱石でまかなう。カストロ、ゲルマニアとガリアの関税支払い実績をもってきてくれ」
「承知いたしました」
カストロは公式の場のため敬語で答えると、すぐに羊皮紙をラウルの手元に持ってくる。そこには、ロタリンギア商人がゲルマニアとガリアで支払った関税が都市ごとにリストされた長大な表が記載されている。同じ表が書かれた羊皮紙を、カストロはシグルドとシャルルにも渡した。
さらに、アーサーやルキウスはこのあとの話の流れを察したため、手元の羊皮紙にメモするための羽ペンの準備を始めた。それを見て、他の王たちもまねて準備する。
ここからは、都市ごとに対象とするかどうか、納税実績から賠償額に充当するためのパズルが始まる。そのうえで、王たちはその自分たちの利益になる都市をプッシュすることになる。
「まずはガリアからだ。カンパニア公領では…そうだな、やっぱり納税額が大きい関税都市、レーミとクリスペジュムは外せないだろうな」
カンパニア公は奥歯を噛んでこちらを睨むが、反論はできない。カンパニア公領の主要都市はそもそもそれくらいなのだ。
「レーミは1年間に20万ソリドゥス、クリスペジュムは12万ソリドゥスの関税を支払っている。レーミの水準はかなり平均的なものだから、これを基準にして考えるか。レーミの場合、5年間として100万ソリドゥスの関税免除が妥当だろ。うん、他の都市も原則として5年間として考えるか」
「異論はない。クリスペジュムは60万ソリドゥスに相当するな。あとは、王領地からオーレリアとガンダはどうだ?」
シャルルはラウルの考えに頷くと、自身が管轄する王領地から大都市を2つピックアップした。そのうち、オーレリアはシャルル自らが言うとは思わず少し驚く。
「…いいのか、オーレリアだぞ」
「あぁ。むしろオーレリアで大きく枠を取っておかないと、それこそ全土に免除都市を設置することになるからな」
「なるほどな」