chapter. 12−9


オーレリアは現代フランスのオルレアンにあたる都市で、ロタリンギアやゲルマニア方面とヒスパニア半島を繋ぎつつガリア全土を放射状に繋ぐ要の都市だ。
ガンダは現代ベルギーのヘントのことで、こちらもベルギー北部の中心都市である。ガリア北東部の港湾都市ブリューギスと、ヘネガウ伯領からバッルム・ヴィルドゥヌム方面を結ぶ街道が、スヘルト川と交差する場所だ。アンドウェルピアの貨物をヘネガウ伯領のカマラクスに運ぶ際も、スヘルト川が一度ガンダでガリア領に入ってしまうため、国内貨物であるのに関税を取られていた。

ラウルは2都市の関税免除による金銭的な効果を計算するため、表に目を落とす。


「オーレリアは5年で600万ソリドゥス、ガンダは100万ソリドゥス。ここまでで860万ソリドゥスか。もう少し、関税免除で計上しておきたいな」


すると、ルキウスがここまでの話の流れを踏まえた意見した。


「なら、ブルグンディア公国とプロウィンキア公国全域を関税免除とすればいい。まだ、ガリアに両地域を割譲したときの条約は効力を持っているんだろう」

「よく知ってるな」

「伴侶となる者の国のことだからな」

「はいはい」


適当に流したが、シャルルはバッと思い切りルキウスに目を向けた。その視線を受けて、ルキウスはニヤリと獰猛な笑みを浮かべる。面倒なことになる前に、ラウルは話を進めておくことにした。


「ルキウスが言う通り、マルテル王にブルグンディア公国とプロウィンキア公国を割譲したとき、主要都市の関税免除を恒久化していた。だから、両地域はもともと関税が低い状態になってる。だから、全域免除としても…そうだな、ブルグンディア公国は5年で100万、プロウィンキア公国は140万、ってとこだな」


この2公国全域が関税免除となることは、新ラバルム帝国の方が利益が大きい。国境を開放することをこのあと要求するだろうし、少なくともガリアはそれを受け入れるはずだが、その際、新ラバルム帝国からロタリンギアに続く最も大きな街道はブルグンディア公国とプロウィンキア公国を通るルートだ。
新ラバルム帝国とロタリンギア王国との間の交易による利益を最大化する上では、2公国の全域での関税免除は非常に重要な役割を果たすだろう。


「ふむ、その2公国なら理解も得やすい。ガリアとしてはそれを承認しよう。それはそれとして新ラバ…エトルリア王、あとで話がある」

「あァ?エトルリア王なんざ聞いたことがねェな」


ルキウスは取り合うつもりがないようだが、シャルルの紅の瞳がとんでもない目力で睨みつけている。あまりバチバチされるのは困るため、ラウルは話をまとめた。


「よし、じゃあガリアの関税免除による補填は合計1100万ソリドゥスでいいか?」

「すまないロタリンギア王、ブリタニアとしてはナネットやブレスタ、ルペッラ、クルニアなどの港湾都市も検討して欲しいのだけれど」

「ブリタニア王風情が何を!」


ラウルが返事をする前にアンデシア公が怒りの声を発し、それに円卓の騎士たちが殺気を漲らせる。ロタリンギアの次に戦死者を出して戦ってくれたブリタニアだ、極力その要求を汲んでやりたいが、一方でガリアの感情的反発も無視できない。新しい戦争が起こっては意味がないのだ。


「うーん…ちょっと難しい調整になるな。今言ってもらった都市は、ロタリンギア商人がほとんど使っていないから、免除にしても額が変わらない。別の形も考えたいから、いったん待ってくれ」

「承知したよ」

「じゃあ次はゲルマニアだな。同じく5年を基準として…こちらとしては、必須の対象都市としてドゥアラッハ、マンネンハイム、マゴンティアは外せない。それぞれ160万、50万、100万ソリドゥスになる」


ラウルはシグルドにゲルマニア側での対象都市を挙げるが、シグルドは手元の表を見て流れを切り替える。


「…そうだな、その3都市は妥当だろう。当方としては、それなりの数の都市を挙げることになるため、一度考える時間が欲しい。ブリタニアの要求もあるようだしな」

「分かった。目安としては、ゲルマニアで1200万から1800万ソリドゥス程度、関税免除で補償するように考えてくれ」

「了解した」

「他の王たちにも、同じ表を渡すことにする。そこからゲルマニアやガリアに対して、総合的に判断して、どのような主張をするか考えて欲しい。いったん今日はこれで終わりにして、続きは明日からにしよう。夕食までに表は用意しておく」


ゲルマニアは時間がかかるだろうし、他の王たちも関税表があった方が予想しやすいだろう。
それに、事前に各王たちとゲルマニア・ガリアに対する要求を考えておく必要もある。

夕食まで時間があるが、今日はこれで終わりつつ、王たちの個人的な小会議を夕食までやってもらうような形になるだろう。もちろん、夕食は各自の宿泊している区画にある晩餐室で行ってもらう。条約が定まるまで、大掛かりな晩餐会はお預けである。


158/174
prev next
back
表紙へ戻る