chapter. 12−13
「…それで、こっちの話だろ。バエティアやイリュリアの王と話してたってことは、やっぱ国境開放と沿岸都市の開港か?」
「その通りだ。ガリアには、バルツィノ、タライオット、ウァレンティア、ナルボア、マッシリアの開港と国境封鎖の解除を要求する。ゲルマニアはヤデル、サロナ、ラグシウムだな」
ルキウスの考えでは、やはり陸上国境の開放と同時にノストルム海の港湾都市を開港させるつもりらしい。
現代ヨーロッパで言うと、スペインのバルセロナ、マヨルカ島のパルマ、バレンシア、フランスのナルボンヌとマルセイユ、そしてクロアチアのザダル、スプリト、ドゥブロブニクにあたる。
「とはいえ、ロタリンギアとゲルマニアの間の交渉によっては、ゲルマニア港湾の開港は難しいだろうな。とりあえずその表を見せろ」
「ん、」
ラウルは羊皮紙を渡したが、ルキウスは受け取らない。どうしたのか、と見上げると、ルキウスはおもむろにラウルを強引に抱き上げた。
いきなり抱き上げられ、驚いて体を固くしたラウルだったが、ルキウスはものともせずにラウルの体を自身の足の間に下ろす。
今、ラウルはルキウスの足の間に腰下ろし、後ろから包み込まれるように抱き込まれていた。
「…いやなにすんだ」
「こうすれば共に表が見られるだろう」
「強化魔法まで使いやがって」
「?使っていない。お前を持ち上げるのに魔法など不要だ」
不躾なことをしてきたくせに、さらに輪をかけて失礼なことを言ってきた。素の腕力だけで十分だという。しかも、ルキウスはそれが失礼だとまったく分かっておらず、きょとんとしていた。
からかうわけでもなく、事実としてそう言っているため、余計に腹が立つが何も言えない。
「…まぁいい。俺の見立てでは、ゲルマニアは15都市前後を関税免除対象とするはずだ。ヤデル、サロナ、ラグシウムはゲルマニアにとってノストルム海に面する主要な港湾だけど、ノストルム海交易はゲルマニア経済においてそこまで大きいものじゃない。アルム=ルメリア山脈があるからな」
エトルリア北部をぐるりと囲むようにしてアルム山脈が広がり、東アルム山脈はヴィエンナまで続く広大な険しい山岳地帯を構成する。
さらに、東アルム山脈は南東方向にルメリア半島西部を縦断するようにして伸びていき、グラエキアまで至る。この南北方向にアルム山脈に続くものをアルム=ルメリア山脈という。
アルム=ルメリア山脈によって、ノストルム海の一部であるアドゥール海とゲルマニア内陸は大規模な陸上輸送ルートがなく、貨物は小分けにして何度も運ぶ必要がある。
そのため、ダルマティア公国の域内経済、およびイステル川流域への交通のために、ノストルム海の沿岸にヤデルなどの港湾が発展してきた。
こうしたことから、これら3都市の関税実績はロタリンギア側にはほとんどなく、同じアドゥール海に面した新ラバルム帝国とイリュリア王国だけが、これらの都市との交易を重視していた。
「ゲルマニアはロタリンギアに対する関税免除対象に、アドゥール海の3都市は選ばない。額が小さすぎるから手間の方がかかるからな。だから、新ラバルム帝国とイリュリア王国に対する回答として、この3都市で手を打つのは十分あり得る展開だと思う」
「なるほどな。では、ガリアとの交渉の方が難航するか」
「多分な。直接交戦してないし」
恐らくゲルマニアと新ラバルム帝国の間の交渉はスムーズに進むだろう。一方、ガリアとの交渉は激しくなるはずだ。
やはり明日の会議も折り合いがつかず、明後日までかかるかもしれない。