chapter. 12−14


夜、一連の小会議もすべて終えて、遅めの夕食と入浴も済ませたのち、ラウルはぐったりとしながら私室に戻った。
宮殿内はいまだに賑やかで、城内に宿泊している各国の高官たちがまだ宴会をしているらしい。王たちを差し置いて、とはならず、これも外交行事であるため、むしろ王たちは早めに休めることができて助かっているだろう。

同様にメティス市内もまだ騒がしく、市内のあちこちでパーティーが開催されている。

そんな喧騒も窓を閉めてしまえば関係なく、重厚な壁に囲まれた部屋は静けさを保っていた。燭台の明かりが多いメティス宮殿は夜でも明るいのが特徴だが、レッツェ城の暗さに慣れていると落ち着かない。

すると、閉めたばかりのテラスの窓がコンコン、と軽く叩かれた。
すぐ振り返って確かめると、外のテラスにはピンクの髪の騎士が跪いている。

以前の三王会談でも同じことがあったな、と懐かしく思いながら、ラウルは自分で窓を開ける。


「勇士アストルフォ、だったか」

「あ、覚えててくれたんだ!」


ただ、あのときと違って、アストルフォはバッと顔を上げて満面の笑みを浮かべた。気の抜けたそれは、開戦初日にシャルルを頼ってしまったときにも見たものだ。
三王会談のときはさすがに敬意を示していたようだが、これが素なのだろう。


「ってあッ、申し訳ありません!ついいつもみたいに…」

「別にいい。公式の場じゃなきゃ口調なんて気にしない。で?またシャルルから用向きか?」

「さっすがロタリンギア王!うん、うちの王様が会って話したいことがあるんだって。眠かったら無理にとは言わないってさ」

「いや、いい。すぐ行っていいんだな?」

「うん!」


やはりシャルルからの言伝のようだ。ここは後宮、どうしても話すときにはラウルから出向かなければならない。
ラウルはアストルフォを自由にさせつつ、自身でシャルルのところに転移をかける。もうさすがに、ロビンに付き添ってもらう必要はない。メティス宮殿内であるし、シャルルが信頼できると分かっているからだ。

そうしてシャルルに用意された貴賓室に転移を終えると、すぐ視界に入ったソファーに座るシャルルが立ち上がったのが見えた。


「悪いラウル、急に呼び出して」

「俺も急に突撃したし、それよりマシだろ」


シャルルは素の姿になっており、ソファーの隣を促す。
ラウルはシャルルの左側に腰をおろして、背凭れにゆるく凭れる。自然とシャルルの傍にいるとき、気が緩んでしまうようだ。
あれだけ弱いところを見せてしまったということもあり、ラウルとしては、シャルルの前では気を張る必要がなかった。

しかしシャルルの方は、少し表情が硬い。いったいどうしたのだろうか、と思っていると、シャルルはワインで唇を湿らせてから口を開いた。


「な、なぁラウル…あのルキウスってやつと、結婚すんの…?」

「え。あぁ、昼間のやつ真に受けてんのか」


そして何を言うかと思えばそんなことだった。ラウルは呆れて、テーブルに乗ったドラジェを口に放る。これはクルミで作られているようだ。
もぐもぐとしていると、シャルルはラウルの言葉からそんな予定はないのだと理解して、一気に脱力した。


「なんだぁ…良かった。めっちゃ焦ったぜさすがに。すげー格好いい皇帝だったしさ。最後まで東ラバルム帝国を守り抜こうと戦い続けた人だろ?」

「まぁな。その点のカッコよさは認める。でも、求婚されてるだけで応じる予定はない。いや、アーサーともシャルルとも今のところねぇけどな」

「そ、それは追々…って待て、ブリタニア王も!?」


驚愕するシャルルに、改めて本当に意味が分からない事態になっているな、と自分でも思う。ガリア、ブリタニア、新ラバルム帝国という周辺の大国だけでなく、マンドリカルドまで本日怪しいことを言われてしまった。
そんな気持ちを寄せられるような人間ではないだろうと内心では思ってしまうのが正直なところだ。ただ、それを口にするといろいろ危なさそうなので黙っている。


「あー…ちなみに、つかぬことを聞くんだが…その、ブリタニア王と新ラバルム皇帝と俺だったら、誰が一番良い、とかあるか…?」

「よく聞いたなそんな質問…」


変な方向の度胸だな、と思いながらも、なんと答えるか思案する。
そもそも選択肢がその3人というのが釈然としないが、単純に考えてみることにした。

まず前提として3人とも自身の王位を放棄したと仮定する。その場合、ロタリンギア王室にやってくることになる。
アーサーは恙なく暮らしていけるだろう。ルキウスは面倒なこともありそうだが、実は気軽に話せる相手でもある。そしてシャルルには、一番弱いところを見せられるものの、シャルルはガリア王であり潜在的な脅威となる国の王だ。


「うーん…本当に結婚、ってなったら、3人ともなぁ…」

「え、そうなのか」

「あぁ。まずアーサーはブリタニアを離れてロタリンギアで暮らすとなると、やることがないから持て余すことが多いだろうし、ルキウスはルキウスで何をしでかすか分からないし…シャルルも、将来的にガリアとの同君連合を避けるためには子を作れないけど、俺は血筋を継承しないといけない立場だし…」

「うっ…まぁ、そうだよな」


正直なことを言えば、最も無難な相手はコンスタンティノスだったりする。血筋は東ラバルム帝国の最後の正当な皇帝という申し分ないものであるし、地位も下ロタリンギア公であり国内のため問題がない。人格は言わずもがなである。

困ったことに、ラウルがもしも子を残さずに死んだ場合、次のロタリンギア王は遠縁の血筋を辿り、コロニア伯かゲルマニア王室、ロンバルディア公がほぼ同列となってしまう。誰であっても政治的に大混乱に陥るだろうし、最悪戦争になる。


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