chapter. 12−15


「…一番、同君連合になっても問題ないのは新ラバルム帝国だな。ブリタニアとガリアはさすがにまずい。ブリタニアはまだ、聖剣が王権を選ぶ以上、必ずしも同君連合になるとは限らないけど…たとえば俺とルキウスの子が、ロタリンギア王と新ラバルム帝国皇帝の座を両方継承したとしても、そこまで問題にならない。土地が完全に分断されてるのは共同統治でもなんとかなるし」

「だよなぁ…俺とラウルだと、生まれた子はどちらの国の法律でも王位継承権第一位。どうあがいても同君連合になるな。俺が王位を降りて次の王が決まってからなら大丈夫そうだけど」


ブリタニアと違い、ガリアは王がコロコロ変わってもさほど問題がない。各公国での統治がしっかりしているためだ。次の王もすぐ見つかるだろう。もともとシャルルの先代マルテルで王朝は一度途絶えているため、血筋は今更だ。
難しい顔をしているシャルルを見て、ラウルはそっと、右側に体を倒した。シャルルの左肩に頭を乗せるようにして凭れると、シャルルは少し驚いたようにする。


「ラウル…?」

「まぁでも…王としての俺が、こうして寄りかかれるのは、シャルルだけだ。もちろん、単に個人的な場であれば、みんな頼れる人たちだけどな。でも、ロタリンギア王として、王でありながら王としての苦しさで誰かに頼りたくなったとき、やっぱ真っ先に浮かぶのはシャルルなんだ」


それこそ、カストロやモレーなど頼れる人は国内にもたくさんいる。立場を気にせず個人としては誰でも凭れられるだろう。
しかし王として、となると話は別だ。王として振る舞う限り、ラウルは国内でも国外でもそこまで弱いところを見せられない。

だからこそ、ラウルは先日シャルルを頼ってしまったのだ。自分と同じ王位につく者であり、王としての自分と素の自分とを分けて、そのうえで素の自分でラウルに接してくれた。そんなシャルルだから、ラウルは自分からロタリンギア再興の目的を明らかにしたし、潜在敵国ですらあったガリアの王に対して、非常に重要な心の内を明かした。


「…シャルルは王として俺の政策に理解を示してくれた。だから俺は、なぜこんな政策を取っているのかシャルルに打ち明けることができた。そしてシャルルは、そのうえで俺の想いを汲んで、ガリアとしてできる限り協力してくれた。新ラバルム帝国がエトルリア北部を併合したときも、この戦争が起こったときも。だから…俺は、王としてお前に、弱いところを見せられる」

「俺が王じゃなくなっても、ラウルは俺を頼ってくれるのか?」

「シャルルの本質は地位によって変わらないだろ。シャルルは、王である前に『自分』だ。俺もある意味ではそうだな、王位に固執してないし。シグルドやジークフリート、アーサー、ルキウスは自分である前に王であり皇帝だ」

「確かにな。そういう意味では、俺たち似てるんだな」


とはいえ、シャルルは王様モードのときは完全に自分を見せないため、他の王たちからすればラウルと同質の人物とは思わないだろう。
シャルルの実の姿を知っているのは、勇士たちとラウル、そしてこの前ちらりとシャルルの姿を見たであろうロビンくらいか。


「…ま、今はいろいろ忙しいし、いつか考えようぜ。あぁいや、俺がラウルに考えてもらう、って方が正しいか。俺の方の準備整ったら、ガチのプロポーズするからさ」

「っ、本気、なんだな」


シャルルが具体的に準備に入ることを告げたことで、ラウルはさすがに動揺する。
アーサーはそもそも互いに王位を捨てられない立場のため婚姻を具体化させるつもりはないし、ルキウスもラバルムの血に拘るからこそラウルの立場が難しいことを理解している。マンドリカルドに至っては見て見ぬふりをした方がいいとまで言ってくれていた。

シャルルは本気で動こうとしている。後回しにできても、いずれその時がやってくる。

それに動じて、体を離して思わず言ってしまったラウルに、シャルルは薄く微笑んだ。


「…本気だぜ、俺は。この戦争でカッコよく立ち回り、そして俺に縋ってくれたあんたを見て、やっぱり俺はあんたの隣にいたいと思った。新ラバルム皇帝も同じなんだろうな。目を見りゃ分かる。目下最大のライバルはルキウス帝、そして最大の壁はロタリンギア国内のラウルガチ勢…いいぜ、敵は多い方が燃えるしな!」


そう言って、シャルルはすっとラウルの顎に指を滑らせた。ぞわりとしたが、その意志の強い碧眼から視線を逸らせない。
ルキウスの紅の瞳には、食われると思った。
今、シャルルの紺碧の瞳には、捕まる、と思った。


「待っててくれよ、ラウル」

「ッ、」


息を飲んで、顔に集中した熱を持て余すラウルに満足そうにしたシャルルは、軽くラウルの頭を撫でてから立ち上がる。


「おし、じゃあそろそろ戻った方がいいぞ、ラウル。明日も大変そうだしな」

「あ、あぁ…」


今回は逃がされた。だが次は、本気で迫られることになる。その時は逃がしてもらえないだろう。
きっとラウルも、逃げるという選択肢の卑怯さにそれを選べない。

その時が来るのはもう少し先になるだろうが、必ず来ると告げられてしまった以上、ラウルも逃げずに考えなければならないだろう。

この先、この世界でどうやって生きていくのかを。


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