chapter. 12−16
翌日、午前中から会議が始まった。
昨晩のシャルルとのことは引きずらず、王として、ラウルはこの場をあるべき姿に導く責務を果たすのだ。
同じ大広間に集まった王たちを見渡して、ラウルは早速二日目の議題に入る。
「みんなおはよう。早速、昨日の続きを始めよう。シグルド、ゲルマニア側からの提案は整ったか?」
「あぁ。当方としては、14都市1地域を関税免除対象として、合計1500万ソリドゥスに相当する賠償に充当することを提案したい。対象は、ドゥアラッハ、マンネンハイム、マゴンティア、ハノヴェーレ、ビアリッツ、ノーレンベルク、ムニヒェン、カスルギス、ブルニエ、ヴィエンナ、グラデッツ、ツァグラブ、ウィミナキウム、アクィンクム、そしてアレマニア公国全域だ」
シグルドが述べた都市と地域を現代の地図で言うと、順にカールスルーエ、マンハイム、マインツ、ハノーファー、ベルリン、ニュルンベルク、ミュンヘン、プラハ、ブルノ、ウィーン、グラーツ、ザグレブ、コストラツ、ブダペスト、スイス全土ということになる。
見事なまでに、ちょうど平均すると100万ソリドゥスとなるような都市が並べられており、しかも大半がゲルマニア王国内の交戦国になっている。
今回の戦争に関わっていない公国としては、ハノヴェーレを首都とするブリューネスクイッグ公国、ビアリッツを首都とするブレンナ公国、ムニヒェンを首都としてノーレンベルクも擁するボイオヴァリア大公国、そしてツァグラブを擁するダルマティア公国とアレマニア公国が含まれていた。
ブリューネスクイッグはブラウンシュヴァイク、ブレンナはブランデンブルク、ボイオヴァリアはバイエルンのことである。ダルマティアは旧ユーゴスラヴィアの大半、アレマニアはスイスを指す。
ラウルは少し考えてから、これはこれで頷ける内容だと判断した。
「うん、まぁ順当ではあるな。ただ、思ったより主要な交戦国が対象を免れている。特にエムスファリアとヘッシアが入ってないのに、巻き込まれた側のボイオハイムやオストマルクなどが入ってるのは違和感がある」
「残りはトレヴァ、ストートガルテンの自由化で容赦願いたい」
「…その2都市だけ?400万ソリドゥスくらいにしかならないだろ」
「いや、自由化であればもう少し高額になるだろう」
シグルドは関税免除以外に、トレヴァとストートガルテンの自由化を提案した。トレヴァはハンブルク、ストートガルテンはシュトゥットガルトのことであり、どちらもトレヴァ公国とスウァビア大公国の首都でもある。
「トレヴァ公はもともと自由化を促進してきた人物だ。すでに多くの障壁が取り除かれている。今の段階から自由化を完全に行ったとしても、トレヴァ1都市で250万ソリドゥス分くらいになるはずだ」
「…、しかし…」
「ストートガルテンに至っては対して取引をしている場所でもない、150万がいいところだろ」
「首都の自由化はそれだけで政治的に大きな意味を持つ。それを金額にすれば充足すると考える」
シグルドが言う通り、首都を自由化するというのは、そこを首都とする公や伯にとってかなり大きなダメージになる。もちろん経済的にもそうだが、首都に自身の権力が及ばなくなるというのは、権力の減衰を意味している。
そしてラウルはそれを理解してあえてこの俎上に載せなかった。さすがにそこまで公たちを追い詰めるつもりはなかったからだ。
しかしシグルドが自らその価値を金額にして充当しようというのなら、ラウルもそれを受け入れてやることにした。その覚悟があってのことなら、あとはゲルマニアの内政の問題だ。
「…いいだろう。なら、政治的影響を一律50万ソリドゥスとして可視化する。そのうえで、ロタリンギアとしてトレヴァとストートガルテンのほか、アフュニゲルネフォルトで350万、カッスセラで50万、そしてドームヒューゲルで400万として自由化を追加要求する。これで自由化分が1300万ソリドゥス。関税免除と合わせて2800万ソリドゥスとなり、残り1000万ソリドゥスを鉱石で支払う」
「っ、王都を自由化しろというのか!?」
「ルートヴィッヒ6世には反省してもらわねぇといけないからな。世代交代は速めにすることを勧めるぞ、スウァビア大公」
シグルドは自分が提案したことのため、それ以上食い下がれない。金額としては理にかなっているし、懲罰的な内容を講和に含める必要がある以上、交戦国であるエムスファリアとヘッシア、スウァビア、フランコニアすべての首都が自由化されるのは妥当だ。
ただ、フランコニア大公国の首都はゲルマニア王都と同一であり、ドームヒューゲルを意味する。王都を自由化するなど前代未聞だ。
自身の玉座がある王都の統治ができなくなる。その屈辱をもって、この場にいないゲルマニア王への懲罰とするのである。
「1万1620人ものゲルマニア兵の命を散らしたんだ。ロタリンギアに対してだけでなく、人の命を握る立場である王として、失われたゲルマニアの民の血に責任を果たせ。それが、ロタリンギア王たる俺から、ゲルマニア王への伝言だ」
「……承知した。その言葉とともに、条約を持ち帰ろう」
シグルドは覚悟を決めたように目を閉じてから、薄く笑って頷いた。国内で相当に揉めるだろうが、それでもシグルドは、ラウルの想いを受け止めてくれたのだ。