chapter. 12−17


その後、ロタリンギアは残る1000万ソリドゥスを金400万ソリドゥス、銅100万ソリドゥス、鉄200万ソリドゥス、鉛200万ソリドゥス、錫100万ソリドゥスに相当するそれぞれの鉱石でゲルマニアに支払うよう取り付けて、これにてロタリンギアを巡る講和が確定した。

加えて、ブリタニア王国はガリアとの協議でナネットとクルニアの開港、およびナネットにおける関税免除を、ゲルマニアとはヒャルトラント諸島のフェイルヴィックの開港とトレヴァ・ファビラヌムの関税免除を行わせることで合意した。
フェイルヴィックはシェトランド諸島のラーウィックにあたる都市で、ブリタニア王国とノルディア王国との交易の中継地となっている。領土としてはイーセンラント王国の領土であり、シグルドの妻ブリュンヒルデ女王が治める土地なのだが、ブリュンヒルデは自身の土地も含めて交渉して良いと事前に伝えていたらしい。
ファビラヌムはブレーメンにあたる港湾都市のことである。

新ラバルム帝国については、国号の承認と国境の開放、およびガリアにはバルツィノ・タライオット・ウァレンティアの開港を、ゲルマニアにはヤデル・サロナ・ラグシウムの開港を行わせた。
なお、皇帝という称号も認められることになったが、あくまで地位はウェスティアにおける王に準じる。ルキウスも、皇帝とは東西ラバルム帝国の皇帝であり、今の自分がそのような立場ではないことから、王と同じ号としての皇帝という地位で了承している。


そのほか、ゲルマニアはアヴァール王国に対してはイステル川の自由通行とウィミナキウム・アクィンクムの関税免除を認め、ポルスカ=ルテニア連合王国にはシュトラーレとラストクの開港、ボイオハイム公国軍の7割武装解除を行う。
シュトラーレはシュトラールズント、ラストクはロストックのことだ。また、ボイオハイム公国はシレジアをポルスカから奪うことを考えていたため、その軍事力を解除させることで未来の戦争を予防した。

ルシタニアはガリアからコンカ・ザルトゥバの関税免除を、バエティアは同じくコンカとウァレンティアの関税免除を通し、高モエシアはゲルマニアからラティアリアの割譲とウィミナキウムの関税免除、イリュリアはゲルマニアからヤデルとラグシウムの関税免除を得た。
ザルドゥバは現代スペインのサラゴサ、ラティアリアは現代ブルガリアのアルカルのことだ。ラティアリア要塞はイステル川の南岸にあり、イステル川を国境とするゲルマニアと高モエシア王国の間において、唯一川を越えて飛び地のようにゲルマニア領となっていた重要な要塞だ。これを高モエシア王国に割譲したことで、完全にイステル川が国境となった。

最後に、条約履行の人質ではないが、ロタリンギア王国とゲルマニア・ガリア王国との意思疎通のずれが戦争を引き起こしたという反省の体裁で、両国から重要な人物がロタリンギアに派遣されることになっている。
名目的な爵位である「宮中伯」を拝する形でロタリンギア王の下について、両国の条約履行が完了するまでロタリンギア王国に人質のようにして滞在するのだ。もちろん、表向きは意思疎通を円滑にするための外交官のような役割だが、実際には人質である。
今後、両国とロタリンギアの間で合意した人物がやってくる予定だ。


これらの内容をまとめた「メティス条約」が各王の王印によって締結され、正式に成立。各国に原本が渡されることになっており、インクが乾き次第、各国の代表に渡される。
調印が完了したのは会議二日目の夕方であり、今晩は晩餐会を行った上で、明日、各国の王たちは帰路につく。

すでに各国代表団の中の書記官や広報官たちは、今回の合意内容を官報として用意しており、早馬の伝令に持たせて首都に伝達させる準備をしている。
そして首都から主要都市へ、主要都市から地方都市へと伝達されていき、全土に条約が広められる。大部分は一般市民には関係ない話であるため、どの町でどの程度、この内容が周知されるかはケースバイケースだろう。

多くの人間は非識字者であるため、こうした国からの広報は口頭で役人が伝える。この役人のことを、元の世界の歴史では「クライヤー」と呼び、ベルや太鼓などで広場での衆目を集めてから発表を行う。
この世界では単に「広報官」と呼ばれており、広報官がラッパやベルを鳴らして広場に人を集め、政府広報を行っている。

広報官より先に、商人が勝手に話を伝えていつの間にか広まっているケースもあるようだ。今回は、ロタリンギア王室からの発表を受けたメティス市民から、ロタリンギア全土、そして周辺地域と瞬く間に広がっていくだろう。

それだけ、この戦争と条約は、世界の歴史を変えるインパクトを持っている。


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