chapter. 12−18


普通は広報官が発表する。しかし今回、ラウルは別の方法を考えていた。

これをカストロに伝えたとき、呆れながらも「お前ならそう言う可能性は視野に入れていた」と応じてくれた。
ポルクスも双子として同じ認識だったようで、すでに手配を済ませてくれている。


「ということで、俺は2時間ほどかけて戦場をもう一度回ってくる」

「な、なんと…」


モレーはそれを聞いて目を見開く。同じくコンスタンティノスとロビンも驚いたが、すぐに破顔する。まったく違和感がなかったらしい。
ロタリンギアの部下たちを集めたメティス宮殿の応接室、ラウルの言葉に反対する者はいなかった。

ラウルは再び戦場となった各地を巡り、この条約の内容を直接伝えるのだ。もちろん、細かい内容はほとんど省略する。重要なのは、この困難を乗り切り、ロタリンギア王国は国土を保全したということだ。
そして、この戦いで命を落とした5000人あまりを追悼するのである。

今回は、カストロではなくモレーとコンスタンティノスを伴って転移する。上ロタリンギアの大部分の伯位を持つモレーと、下ロタリンギア公であるコンスタンティノス、そしてロタリンギア王のラウルが揃い踏みすることで、国を挙げての勝利を演出する狙いだ。

メティス宮殿の留守は双子に任せ、ラウルは晩餐会までに宮殿に戻れるよう、分刻みのスケジュールで動くことを想定する。


「じゃあ行こうか、モレー、コンスタンティノス」

「はっ」

「御意に、我が王よ」


恭しく礼をしたモレーと、茶目っ気たっぷりにウインクしたコンスタンティノス。随分と違うようで、芯の部分は似ていると内心では思っている。モレーはこれを聞いたら胃痛で顔をしかめてしまうだろうが。

そうしてラウルたちは、王たちと会議に臨んだ正装のまま、激戦地であるストラーズブルスに転移した。

周りの景色はメティス宮殿の豪勢な部屋から、アルザティア伯居城の無骨な石造りの部屋に変化する。ほとんど訪れたことがない城だし、アルザティア伯はラウルが兼任しているため誰も使っていない城だ。
しかし城を維持する使用人たちはおり、突然、廊下に出てきた三人にポカンとしていた。

モレーが早速声をかける。


「見ての通り、ロタリンギア王の御幸である。号令をかけよ、ストラーズブルス市に王がご臨席だ」

「は、はい…ッ!」


顔面を蒼白にして、使用人の女性は慌てて走っていった。少し、いやだいぶ申し訳ない。
メールやSNSでパッと情報の伝達ができる現代というものがどれほどすごいか、こうして見ると改めて実感する。

すぐに騒々しくなった城内、さらに市内あちこちの鐘が鳴り響く。この鐘は広場で重要な告知が行われることを告げるものだ。なお、教会はこの世界に存在しないため、鐘楼として独立して塔が立っている。

慌てて全力疾走でやってきたのは、この城の責任者の男だ。


「は…っ、はぁ…っ、へ、陛下…!」

「あー…悪いな、いきなりで。まずは呼吸を整えろ」

「は、はひ…っ、」


今にも倒れそうな男性を落ち着かせようと直接声をかけたが、それだけで失神しそうになっていた。なぜかモレーが「分かる」という顔をしている。


「…コンスタンティノス」

「ふふ、承知いたしました。気を楽にされよ、居城執事長。陛下は多少の無礼はまったく気になさらない」

「は、ははぁ…!」


執事長はぜえぜえと息を荒げつつ、なんとか職務を思い出し、ラウルたちを案内する。
城が面する市内最大の広場を見下ろすテラスに案内してくれるのだ。

廊下を進むと、この城の少ない使用人たちが総出で出迎え、深々と頭を下げていた。この城に領主がいなくなって実に4年だ、いきなり王が来るとは心臓に悪いことをしてしまった。

そして窓が開け放たれる。ゆっくり進んできたこともあり、すでに広場には急な招集に困惑する市民のざわめきが満ちていた。城壁近くの市民がそろそろ広場に到着する頃合いだろう。
窓の外に見えている市街地はどこかボロボロで、遠く第一城壁の見張り塔はかなり崩れ落ち、本来ここから見えたであろう第二・第三城壁の塔やストラーズブルス城塞の館も見えなくなっている。人口5万の大都市ながら、よく耐え抜いてくれた。

ラウル、モレー、コンスタンティノスが揃ってテラスに出ると、見上げている市民が一瞬ポカンとする。直後、ラウルの纏う深紅のマントに目を丸くした。
なぜなら、深紅のマントとは王にしか許されていないからだ。なおかつ、マントに金糸刺繡されているのはラバルムの紋章。さすがにこれでラウルの立場が分からない者は、少なくとも都市住民にはいない。

直後、市民は歓声を上げた。このような緊急招集や鐘楼がかき鳴らされた理由を理解して、「ラウル陛下!万歳!」「ロタリンギア王に幸あれ!!」という声がこだまする。
手を挙げて少しそれに応えてから、ラウルはテラスに設置された拡声魔術を起動する。術式に魔力を込めた者の声が拡大されて響く魔術だ。


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