chapter. 2−8


ロビンがメティス宮殿の後宮にやってきて数か月。なんとなく、ラウルという人物が分かってきた。

まず一つ、あまりに年不相応の大人っぽさと知性を有している。
ラウルが周囲の大人に言い負けているところなど見たことがないし、周りの大人たちも、ラウルの頭の良さが次元の違うものであると理解しているようで、その点については信用しているようだった。

ただ、それが尊敬や忠誠に至っているかというと、身の回りの世話をする使用人はそのようだが、貴族や父王、ほかの王族分家などからは不気味がられている節がある。なんとなく畏怖があるから言うことを聞いている、といったところか。
それによって、ロビンがメティスに来た日のガリアでの会議も無事に終え、あの軍隊王と呼ばれたガリア王マルテルすら論破して、ガリアからのブリタニア人帰還令にこぎつけていた。

現在もブルトン地域からのブリタニア人の帰還が続いている。

一方、子供っぽさなんてものは皆無であり、笑顔などまず見せることがないし、常に張り詰めた表情をしていた。気の休まる場所はほとんどないようだが、唯一、カストロとポルクスだけがいる場面では、気を緩めて少しだけ笑う様子だ。

カストロとポルクスはラウルが保護した元アルカディア王家の双子であり、グラエキアが共和制になってフリギアとの血で血を洗う戦争を繰り広げる中で王家は滅ぼされ、命からがら海を渡ったところでラウルに出会ったのだそうだ。
必要な教育や訓練を受け、今や立派なラウルの護衛となっている。

そうした教育などはロビンに対しても行われたが、それは双子のものよりも、実務的なことや工学めいたことだった。
いったいなぜ、と思わないでもなかったが、おそらくはそれを用いた仕事を振られるのだろうと推測し、ロビンは言われるがまま頭にすべてを叩き込んでいる。

そんなある日、いよいよロビンはラウルに呼び出される。自室が指定されており、いつも通り魔法によって姿を隠してラウルの部屋に入る。
ロビンの存在はブルトンで逃亡したことになっているらしい。それはそうだろう、まさかロタリンギアの王子が直々に誘拐しているとは思うまい。
それもあって、ロビンは基本的に人目のつかないような行動をしている。


「来ましたよっと」

「あぁ。メティスでの生活はどうだ?」

「まさに地上の楽園って感じですねぇ。こりゃ、対価はでかそうだ」


暗に要件を理解している、というロビンの言葉に気づかないラウルではない。
ひとつ頷いてから、大理石にエメラルドの天板がはめ込まれた豪華なテーブルに大きな地図を広げた。


「ちょっとこれを見てくれ」

「これは…、レッツェ((ルクセンブルク))地方か?」

「お、よく分かったな」


これまで集中的に学ばされたロタリンギアの地形。その中で思い当たる場所があったが、どうやらビンゴだったようだ。

メティスから北に位置する丘陵地帯、起伏にとんだ台地を切り裂くように流れる二つの川が蛇行しながら合流する場所だ。
西から東へ流れるペトルース川が、南から北に流れるアルザート川に流れ込むところであり、どちらの川も蛇行しているため複雑な谷間が形成されている。


「俺が即位するのと同時に、ここに遷都する」

「……え、マジですか」

「嘘なんか言うわけないだろ、ここで」


呆れたようにするラウルは本気だ。
初めて出会ったときもそうだったが、この王子、冷静で頭がいいのにやることが大胆すぎる。

ウェスティア最大の都市であり、あらゆる富が集まる象徴的な大都市たるメティスを捨て、こんな渓谷に遷都するなど。


「そりゃ、確かにレッツェ村は現王都メティスと旧王都トレヴェリス((トリーア))とをつなぐ街道と、下ロタリンギアとメティスをつなぐ街道とが交差する場所だが…いくらなんでも辺鄙すぎやしません?」

「ここなら要塞化して籠城できるだろ」

「……戦争したくないんじゃなかったか?」

「攻略できない王都に住んでるってだけで戦争する気も失せるだろ。それに、外国との戦争というよりも、これは国内向けの要塞だ」


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