chapter. 2−9
ラウルは、即位後すぐに発布する勅令をかいつまんで説明した。
なんでも、あまりに細分化されているロタリンギアの封建領主たちを再編し、中央集権化するのだという。その過程で、多くの家が所領や継承権を失い、貴族たちの王家への反発が予想されるとのことだ。
「そこまでして国土を再編して、どうするんです?」
「集約すると効率が良くなる。国家全体の生産性が上がり、国力が上がる。人口や馬、牛が増える。そうすれば常備軍を作れるし、周辺国に農作物を輸出してロタリンギアに依存させ、戦争をためらわせることもできる」
「依存…なるほど……」
確かに、周辺国がロタリンギアでの戦争によって甚大な経済的被害が出るのであれば、戦争を未然に防ぐことも可能かもしれない。
「とはいっても、最大の抑止力は外交政策だ。だから一番の目的は国力向上だな。今の農業を改良していくには、どうしても人口と家畜が必要になる」
「その過程で生じる国内の反発する勢力を牽制するために、要塞都市に遷都するってわけか」
「ああ。ただ、レッツェは居城であり通常執務を行う場所だけど、この宮殿は残す。主に外交や国内貴族との会議用だな。この規模の宮殿はレッツェには作れない」
「まぁ妥当でしょうね。それで、俺は何をすりゃあいいんでしょうかね」
ロビンは本題、自分の役目について尋ねる。ラウルは地図の上に、羽ペンで書き込みを入れ始めた。
「ロビンには、レッツェの要塞建設計画を立案してもらう。基本構造はこんな感じにするから、細かい部分だな」
「え」
なんとこの王子は、ロビンに対して新王都建設の計画を立てろと指示したのである。ただのブリタニア貴族の庶子であるロビン相手にだ。ロビンは確かにラウルより5つ年上だが、正直、頭脳ではラウルの方がはるかに大人に思える。
しかし、ラウルが書き込んだ地図の基本計画を見て、ロビンはさらに目を丸くする。
「これは…なんつーか、不思議な形ですね」
「名付けて星形要塞。今の円形要塞は死角ができる上に、ガリア戦争で用いられた最新式の火砲には脆弱だ。もちろん、火力系の魔法にもな。そこで、死角ができない多面体構造、多方面から攻撃できる城壁、衝撃を分散させる壁の角度、堀と斜堤による火砲の接近対策なんかを盛り込んだ」
「…あんた、建築学まで精通してるんで?」
「……いや、そういうわけではないけど…なんつかこう、まぁなんでもいいだろ」
ラウルにしては珍しい煮え切らない返答だったが、ロビンは合理的な設計になるほど、と感嘆する。
確かに、星形を思わせる複数の角が連続する城壁は、円形の要塞で生じる死角を発生させない。角と角の間にある城門に入ってくれば、三方向の城壁に囲まれ集中砲火される。
多面体の城壁に沿って、外側には堀が掘られる。堀の外側には斜堤という堤防が作られ、緩やかな斜面のある堤防によって火砲を安定して設置することができない上に、城壁から遮られない緩やかな角度のため迎撃は容易だ。
ところどころには大稜堡があり、より大きなダイヤモンド型の部分が三ヶ所に設置される。
しかも、これはあくまで一番外側の防壁。一つ内側には同じように三角が連続するギザギザの城壁があり、さらにその内側には、従来からある市街地の城壁が鎮座する。
この三重の城壁は、開けた北西側の台地に設けられたものであり、南はペトルース川とその深い渓谷、南東はペトルース川とアルザート川が合流する水辺、東から北東にかけてはアルザート川とその渓谷という天然の防壁が存在している。特に、南と東の渓谷はそれなりに深く、強引に上ることは極めて難しい。
「余裕があれば、川の対岸にも星形の城壁が欲しいところですね」
「やっぱり谷間だけじゃ厳しいか」
「魔法攻撃を考えると弱すぎます。東側は、台地側面の岸壁こそ高さがあるが、川の対岸はなだらかな斜面に続く低地だ。それに、味方側の移動にも手間がかかる。味方の移動手段を確保しつつ、全方面に対して予備攻撃ができるようにした方がいいでしょうね。対岸の川と城壁の間には、駐屯施設を建設して、都市住民と兵士の居住地を分けてもいいかもですよ」
「おぉ…さすがだな」