chapter. 12−23


先ほどはまだ迷っている様子だった。ロタリンギアに戦争を仕掛け多くの犠牲を生んだ国の自分が、ロタリンギアで厚遇を受けてよいのかということと、優れた兄たちに対して三男の自分ができることなどないという諦観からだ。
だが今は、強い意志を瞳に宿している。


「俺はゲルマニア王室の三男として、軍属か学者か、なんであれ適当な地位について生きていくのだと思っていた。そんな俺に、あなたは遠すぎる存在だった。けれど、未来に向けて責任を果たすべきだというあなたの言葉に、俺にも成すべきことがあるんじゃないかと…そう思ったんだ」

「ほかにやりたいことがあるなら、好きにしていいんだからな」

「分かっている。だが…なんだろう、自分にも、ゲルマニアの王族としてできることがあるかもしれない、そのための力を得られるのかもしれないと思ったら、なんだか不思議と高揚するような気がしている」


ジークはどうやら、本当に「やってみたい」という気持ちになったようだ。その目が雄弁に物語っている。それなら、ラウルからはこれ以上言うことはない。


「レッツェ大学は法学部、政治学部、魔法学部がある。まずはそこで学ぶといい。今度、グラエキアから招いたケイローン教授も紹介しよう」

「感謝する。俺の立場で言うのはどうかと思うが…この国に来て良かった、かもしれない」

「ふふ、それは僕も同意します。ラウル様の元へ来られて、という方が正しいのでしょうが」

「それもそうだな」


なんとなく空気感が似ている二人は、そう笑った。最初にこの部屋に来た時より、ずっとリラックスしている。


「…よし、じゃあ、あとは使用人が城内の案内をするから、今日はもう休んでくれ。長旅で疲れただろ」

「ああ、分かった」

「はい。それでは失礼します」


ジーク、サンソンはともに部屋を出ていき、執務室にはラウル一人になる。

しかしすぐに、扉がノックの直後に開かれた。


「失礼するぞラウル」

「カストロとポルクスか。どうした?」


入ってきたのはカストロとポルクスだった。ジークたちとはすれ違っただろうが、会話があったような時間ではない。カストロのことだ、ほとんど一瞥もなくこの部屋に来たに違いない。
それを指摘する前に、カストロは目尻を釣り合げた。


「お前はまたホイホイと!」

「え、なに」

「あの二人のことだ!どうせまた誑かしたんだろう!目を見れば分かる!」

「兄様…」


何かと思えばそんなことで、ラウルは脱力する。確かに信頼はしてもらえただろうが、それこそシャルルのようなことにはなっていない。
というか、カストロの知らないところで、シャルルやアーサー、ルキウスとどういうことがあったかカストロが知った暁には、レッツェ城から出してもらえなくなりそうだ。

とりあえずこの場は流そうと本題を尋ねる。


「まぁとりあえず用件は?さすがにそれだけ言いに来たわけじゃないだろ」

「ぐぬ…仕方ない王だまったく」

「ラウル様、用件ですが、関税免除対象の18都市3公国での関税免除が無事に始まりました。取引所連盟都市間で使用しているロタリンギア商人の証印で認証が行われているようです」


ポルクスが代わりに報告してくれたため、ラウルは懸案がまずは一つ解消されたと息をつく。情報がうまく伝達されていなかったり、都市の領主や議会が反発したりすると、履行に時間がかかる可能性があったからだ。
ロタリンギアは今、条約の履行だけでなく、国内の復興事業でも大忙しである。外国でのことまで面倒を見ていられない。


「…各地の城壁修理については、計画策定と予算確定、人員確保まで目途が立っている。あとは実行に移すだけだ。ウェサリア近郊のルピア川堤防はすでに修繕を完了した」

「そうか、ありがとう。これで短期的なところは何とかなったか」


息を吐いて背凭れに体を預ける。久しぶりにしっかり疲れた。ここのところ、国内の復興計画の準備で仕事を詰めすぎていた。

見かねて、ポルクスが口を開く。


「…あの、ラウル様。今日はもうお休みになられては?本日中に決裁が必要な案件もありませんので」

「そうだな、妹よ。ラウル、お前はそろそろ休息が必要だ」


カストロも頷く。確かに、残っている仕事は今日でなくてもいいものばかりで、ジークたちとも会えた今、急ぐことは何もない状態だ。
これで過労で倒れようものなら、カストロたちがどうなるか目に見えている。ラウルは素直に提案に応じておくことにした。


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