chapter. 2−10


ラウルはロビンの素早い提案に感心したようにした。少し照れくさくなりつつ、これだけの規模では資金も人手も足りないのではと現実的な課題にも思い至る。


「人と金は足りてるんですかい?」

「問題ない。2年前からメティス伯領では俺の指揮で農業改革をやってるんだけど、それで収量が増えて王室の取り分が多くなってる。父上がガリアにプロウィンキア公国とかを売却した分も充てる。人については、ガリア戦争からの帰還兵を主に、メティス伯領で夏の中耕が終わった元兵士も合わせてレッツェにぶち込む」

「2年前て…あんたまだ10歳とかじゃ…」

「年齢なんて関係ねぇだろ」


そんな次元ではないのでは、とロビンは思ったが、少し表情を暗くした様子に口をつぐむ。事実としてできているのだから、それ以上は不要だ。
それにしても、とロビンは目の前の少年を見つめる。


「…本当に、ロタリンギアが戦場にならないようにしてるんですね、あんた」

「戦場になっていい場所なんてないけどな。ロタリンギアは特に、国土の大部分に人が住んでる。戦争になったら間違いなく市民の犠牲が多くなる」

「王子って肩書なら確かに、それを避けるのは自然と言えば自然だ。だが、そのためにここまで敵を作り、それに備えた要塞都市を建築するなんてのは、ただの王子っていう立場からだけじゃ考えられねぇ気もするんですよ」

「それ、カストロにも言われたな。私欲はないのかって」

「当然でしょう、どこも王様やら王女様やらなんてのは、そういう生き物です」


ロビンの知る王侯貴族とは、あまりに乖離した存在だ。いくらロタリンギアの王子とて、ここまで聖人君主というのは現実味に欠ける。
しかしラウルは、なんでもないように答えた。


「これも私欲だ。だって、俺は王家の行く末も、ロタリンギア王国の存亡もどうでもいいんだ。なくなった方が、人々が幸せになるのならなくなっていい。隠居するだけだしな。けど、このままじゃそうはならない。俺が動かなかったせいでたくさんの人が死んで、生活が破綻して、多くの子供たちが泣きながら生活するくらいなら…俺はどれだけ恨まれても、敵意を向けられても、成すべきことを成す」

「…それは、私欲と呼ぶには善人すぎるんですよ、まったく」



少し呆れたようにしたロビンに、ラウルは困ったようにする。そんな顔をさせたいわけではない。
ただ、ロビンは一つだけ、言っておこうと口を開く。


「俺はあんたに助けられた。あのままじゃ処刑されて体をバラバラにされただろう。あんたが言うように、ガリア戦争で多くの犠牲が出て、俺も含め、多くのみなし子が陰惨な目に遭った。そんなことに、王侯貴族なんてものは興味も関心もないと思ってた。それでもあんたは、そんな国を、良しとしないんだな」

「…人は、生まれながらに、無条件で、笑って幸せに生きていける存在じゃなきゃいけない。それを保障する国家でなければならない。人が人であることが、一番大事なんだ」

「それなら、お前さんは誰が守るんです?誰があんたを幸せにして、笑顔にするんだ?」


そんなロビンの質問に、ラウルはこれまた珍しくポカンとする。今日はラウルの珍しい表情をよく見ているが、一番見たい表情ではない。
そこでロビンも、自分自身の感情に気づく。そうだ、自分は、自分を助けてくれたこの少年が、あまりに重い覚悟と未来を背負って敵だらけになろうとしているのを見て、せめて自分の前では楽にしてほしいと、そう思っているのだ。


「…俺が笑顔にしたいのは、幸せにしたいのは、あんただ、ラウル。レッツェだけじゃない、お前を守る。だから、俺の前では肩の力抜いてくださいよ」


ぽん、とラウルの頭に手を乗せて軽く撫でる。どう考えても、王子に対してそんなことをするのは不敬だ。しかし、ラウルは呆気にとられたあと、小さく微笑む。


「…ありがとな、ロビン。誰かにそう言ってもらえるのって…嬉しい、もんだな。俺、気ぃ抜くとマジで何もやらなくなるけど平気か?」

「上等ですよ、世話焼き倒してやります」

「はは、そっか」


初めて笑ったところを見せたラウルは、ロビンが撫でる手を心地よさそうに受け止める。それでもなお、子供っぽさではなく大人びた様子ではあったが、それこそがラウルをあえて守りたいと思う理由なのかもしれない。


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