chapter. 3−2
ロタリンギアを強い国にするには、細分化されすぎた封建制を再編し中央集権化すること、そして農業改革を行って生産量を増大し、人口と家畜を増加させることが必要だった。
元の世界にいたころ、日本でいわゆる「異世界転生」系の小説や漫画が流行していたのは知っていたし、その中には内政改革を行っていくストーリーがあったのも知っていた。
史学科としては、どのように世間が史実を受容しているか気になっていくつか見たことがあったのだが、やはり、あの転生チートと呼ばれる改革の数々は無理があると言わざるを得ない。それは、こうして実際にそんな立場になってしまってから身に染みて感じている。
もともと、近代以前のヨーロッパにおける農業は三圃式というものであり、夏の作物を栽培する畑、冬の作物を栽培する畑、そして何もしない休耕地の3つをローテーションする方式だ。
これは、連続して栽培すると連作障害になると古代から知られていたためで、休耕地を設けて土地の養分を回復させることが行われた。特に、休耕地では家畜が放たれ、その糞尿が肥料となって土地を復活させるとされた。
それらはある程度機能したものの、よほどの優良土壌でもない限り、休耕地を設けても土地が回復しきれず、休耕期間が長引いたり、劣等作物に差し替えたりする必要があった。
基本的に、夏穀として大麦、冬穀として小麦を栽培することが最も理想的だ。それは需要が多く、特に小麦はこの時代の欧州にとって最高級穀物であったためである。
しかし、「小麦は肥料で育てるもの」と言われるほど優良土壌でも連続して育てるのが難しく、土地がやせている欧州では、フランス東部など限られた地域でしか不可能だ。フランス東部ですら、昔は不作となるときも多かった。
そのため、休耕地としても土地が回復しきらない場合には、グレードを落として大麦の代わりにオーツを、小麦の代わりにライ麦を育てることも往々にしてあった。
近代に入り、ベルギーやフランスにおいて三圃式を改良する試みが行われるようになると、生産性に変化が訪れる。
休耕地に中耕作物であるカブを植えることで、土地の回復を早めて冬の畜産を可能にする方法だ。
中耕作物とは、栽培中に土地を再度耕す中耕を行うことで地中に空気を送り、雑草を取り除く作業を必要とする作物のことだ。カブやジャガイモがそれにあたる。
これらは地中で育つ作物であるため、土を耕して地中における生育環境を整えつつ、地表部分も背が低いため雑草の影響を受けることから雑草を取り除く必要がある。
極めて面倒であるが、カブは地中に窒素を送り込んで土地を回復させる役割を果たし、なおかつ家畜に与えると食欲が減衰する冬でもその甘さから食べてくれるため、それまで不可能だった冬の畜産を可能にしたのである。
ちなみに、カブなどの根菜類は欧州では長らく食用ではなかった。
こうした特徴を学んだ作家によって、日本における内政をテーマにした異世界転生系作品では、中耕作物としてカブを採用することで生産量を高め、最終的に輪栽式農業にまで発展させる、というシナリオがよく見られる。
だが、そんな簡単な話ではないのだ。
「確か、陛下はメティス伯領での農業改革にあたっては、ガリア戦争の兵を戦役と農役とで入れ替えることで対応されたのでしたね」
「あぁ。ガリア戦争が終わったのは、メティス伯領での実験を始めて2年が経過した1274年。戦役が終わってからは、レッツェ要塞都市建設と夏の中耕とを交互にやらせた」
「効率の良い話は聞くだけで健康に良いですね」
「そ、そうか…」