chapter. 3−6


ロタリンギア王国のアルドゥース高地より南の地域を上ロタリンギア公国といい、現在のフランス東部グラン=テスト地域圏の東側3分の2とルクセンブルク、ドイツのザールラント州の大部分とラインラント=プファルツ州南部に跨る地域にあたる。
その中でも、広大な平野部は原ロタリンギア平野と呼ばれるものであり、王都メティスや、ヴィルドゥヌムなどの商都を擁する経済の中心だ。古代ラバルム帝国がアルム山地以北で最初に入った地域でもある。そして最初にアルム以北で古代ラバルムが都市を築いたのが、トレヴェリス市だ。


「確か、全14の伯位のうち、モレーには4つだけしか任せてなかったはずだけど。メティスとトレヴェリス、レッツェ=ロンカストル、アルルナ、レンディンガ、アルザティアの6つは俺が持ってるし」


メティスはメス、トレヴェリスはトリーアにあたる都市だ。レッツェとレンディンガはルクセンブルク域内にあり、ロンカストルはルクセンブルク国境に近いフランス領ロンウィー、アルルナは同じくルクセンブルク国境付近のベルギー領に位置する都市アルロンだ。
そしてアルザティアはアルザスのことである。

つまり、14の伯位のうち、10はラウルとモレーだけで占めており、独立した貴族が有している伯は4家だけとなる。


「ええ、それはそうですが…私めに任されたコンフルエンティア伯、プルミア伯、セダヌム伯、ヴィルドゥヌム伯はいずれも交易の要衝。スギテンシスの田舎生まれには荷が重い、と言いますか…」


プルミアはドイツのプリュム、セダヌムはフランスのスダンにあたる場所だ。
スギテンシス伯領は上ロタリンギア公領で最も南に位置する地域で、モレーの出身地である。

もともと、モレーはこのスギテンシス伯領を継承する家の青年だった。この家はレッツェ勅令にも逆らう意向がなく、また辺境だったこともあり、ラウルとしてはそのままスギテンシス伯として勤めてもらおうと思っていた。
しかし、ロンカストル周辺の旧ワブレンシス伯をラウルがレッツェ勅令で廃止した際、ワブレンシス伯家が王家に反発し、強引にスギテンシス伯を継承。ラウルは取り潰そうかとも思ったし、事実カストロはいつでも武力行使する気でいたが、当の旧スギテンシス伯家が合意してしまっていたため、ラウルはそれ以上の介入をやめたのだ。

その後、レッツェ建設事業の主要部分を終えたロビンがレッツェ勅令の実行のために各地で諜報活動をする中で、旧スギテンシス伯家の嫡子たるジャック・ド・モレーが路頭に迷っていると報告、ラウルはモレーをレッツェに呼び出した。


「最初、この城に呼び出されたときは、のうのうと領地を失っても生き続けていることへの罰が下されるものと…」

「いや、どんな王だよ」

「…その、正直、数々の改革を断行し、先代ガリア王マルテルすら論破した若き王と聞いていましたので…とても苛烈なお方なのかと思ったのです…」

「じゃあ今は?」


ラウルはワインで口を潤しつつ笑いながら聞いた。モレーは途端に表情を明るくする。


「民を思いやりながらも、感情ではなく合理性と金で現実的に国力を淡々と増強する理想的な王でございます!」

「そりゃどうも。俺も、まさかモレーがこんなにも守銭奴気質でバリバリの商人野郎だとは思わなかった。あぁ、褒めてるぞ」

「陛下、褒められている気があまりしないのですが…」


おかしくなって軽く笑いつつ、ラウルは初めてモレーをコンフルエンティア伯に着任させたときを思い出す。


「はは、まぁでも、お前をコンフルエンティア伯につけたのは本当にただの監視要員だったんだ。そしたら、モーセララント専売会社の経営も引き受けてくれただろ。自分から進み出てくれると思わなかったから任せてみたら、あれよあれよと儲かるんだから、さすがに驚いた」


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