chapter. 4−4


翌日、治癒魔法士からコンスタンティノスが目を覚ましたという連絡を受け、ラウルはカストロとポルクスとともに客室に向かった。
部屋に入り、ベッドに向かうと、白い絹の柔らかなシュミーズを着たコンスタンティノスが上体を起こして待っていた。大きく開いた襟元から覗く胸筋や、袖が開いたところから見える腕の太さは、皇帝でありながら軍人であったのだとすぐに理解できる。


「外傷はすべて完治しています。内臓については数日様子を見ましょう。消化器官が弱っているので、しばらくはミルク粥を中心に、乾燥させた果物などで食事をとらせます」

「分かった、ありがとう」


男性の治癒魔法士は簡単に状況を報告してから、一礼して部屋を出て行った。
ちなみに治癒魔法士とは、治癒魔法を発現した貴族の子が担う仕事のことで、王室や軍で高い給与を払って雇う魔法使いを指す。

治癒魔法士がいなくなり、双子はラウルの後ろに控える。もちろん、何かあった際に備えて警戒しているのだ。特にカストロはすでに防御態勢に入っている。

二人の魔法は光魔法。カストロは盾を光学迷彩で隠蔽し、防御や打撃を与える。ポルクスは剣にレーザー光線のようなものを纏わせて戦うことができる。

そんな二人の警戒を感じたのだろう、コンスタンティノスはベッドの上で苦笑した。


「良い警戒だ。程よい威圧感、瞬時に間合いを遮り王を守れる位置。余程の訓練を積んだと見る。その顔立ちはグラエキア人かな、この辺りでは珍しいだろう」

「貴様の父が独立を認めたアルカディア王国の王、その嫡子こそ我らだ。奇しくも貴様同様、船でアルカディアからヴィネギアに漂着し、ラウルに保護された」

「なるほど。それでロタリンギア王を守る意思が強いのだね。ミクラガルズの将軍たちを思い出す」


ラウルは本題に入っていいという合図だと理解し、そこで切り出す。カストロも当然理解しており、それ以上は返さなかった。


「帝都ミクラガルズは陥落したが、東ラバルム帝国はアンティオキアに遷都して存続している、と報告を受けている。皇帝の名はルキウス・ヒベリウス。血筋としてはルキウスの方がラティウム=ミクラガルズ家に近いが、先代の継承権を巡る争いで負け、コンスタンティノスの父が即位した。ルキウスとその父はアンティオキアに移り、先日のミクラガルズ陥落に際してルキウスが僭称即位、一応、東ラバルム帝国はシュリア地域で維持されている」

「…そうか。ルキウスが…いや、正直、彼の方がこの局面でパールス帝国に対して優位に立てただろうが…」


ラウルの世界ではトルコにあたる地域から中東までを支配する東ラバルム帝国。しかし、アケメネス朝にあたるペルシアの帝国であるパールス帝国が猛攻をしかけ、次々と領土を奪い、ついにアナトリアを突破してミクラガルズを落とした。現在、対岸のバルカン半島にあたるルメリア半島の先端部分でとどまっている。
そこから先には複数のオスティアの国々があり、アナトリア半島南西部にはフリギア王国が、そしてフリギアと争うルメリア半島南東部のグラエキア連合とが残っている。

パールス帝国はそれ以上の侵攻をやめ、シリアにあたるシュリアに残った東ラバルム帝国の残存勢力を包囲して落とすつもりだ。


「ルキウスは巻き返せそうかな」

「無理だろう。物量が違うし、シュリアでの軍備も整っていないはずだ。アンティオキアに移ってからどれだけも経ってないだろ」

「…さすが、詳しいね。私の父と彼の父が権力争いをして、ルキウスの父が破れてアンティオキアに移ったことまで把握しているとは」

「腐ってもロタリンギア王なんでな」


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