chapter. 4−5
遠く離れた東ラバルム帝国のこととはいえ、ここは一応、ウェスティア世界の中心なのだ。特に、ロビンが来てからは、積極的に商人などからの情報を仕入れてくれている。
とりあえず、ラウルが得ていた情報に誤りはなかったようであるため、続けてコンスタンティノスに、なぜミクラガルズから逃れたのか聞くことにする。
「さて、1年前にミクラガルズを出たとのことだけど。なんでわざわざ小舟でノストルム海を渡るようなことを?それもロタリンギアを目指してたんだろ」
「…すべては、将軍たちの望みだった。私は、本当のところ、帝都と運命を共にしようと思っていた」
視線を落として、ぽつぽつとコンスタンティノスはミクラガルズで起こった出来事を話し始める。
「父がフリギアとの戦争で命を落として私が即位したのは7年前。そのころはまだ、パールス帝国は東への拡大に注力していた。しかし3年前からこちらへの攻勢を強め、シスカウカーソスを奪われた」
ラウルの世界でトルコの大部分と、シリア、アルメニア、アゼルバイジャンを領土としていた東ラバルム帝国は、アルメニアとアゼルバイジャンから成る南カフカス、この世界ではシスカウカーソスと呼ばれる地域をまず最初に奪われた。
それを皮切りに、パールス帝国は電撃的に東ラバルム帝国に侵攻する。
「バビロニアとの三国国境にあるオルミアを落とされ、そのままあっという間にティグラナケルト、テオドシオポリスに進み、シスカウカーソスからトレビゾンド、セヴァスティアまで、僅か3日間の出来事だった」
「は、3日間?今のロタリンギアを北から南まで進める距離だぞそれ」
トルコのオルミーイェからディヤルバクル、エルズルム、アルメニアからトラブゾン、シワスまで僅か3日間で攻め落としたということだ。これは、ベルギーの海岸からスイスまで至るようなものである。
「迎撃戦線を構築しても各個撃破されるだけだと判断した私は、全軍を招集し、ミクラガルズに立てこもった。ルキウスは応じなかったが、私が仕損じたら彼が僭称でも即位してくれると淡く期待していたのは確かだ」
「読み通り、ミクラガルズは陥落し、ルキウスは僭称して帝位について、シュリアを死守している、ってわけだな。ミクラガルズはどのくらい持ち堪えたんだ?」
「包囲が完了してから、およそ2か月。地獄のような日々だった。パールス帝国は海上戦力に乏しい、なんとか商船による補給は続けられたが、ミクラガルズはもともと40万人が暮らした都市だ。包囲前に大半の市民をグラエキアやフリギアに避難させたから、当時は軍人を入れて12万人程度ではあったが、それでも2か月を耐え忍ぶのは過酷だった」
気が遠くなるような期間だ。2か月にわたり、人口を減らしていたとはいえ大都市に閉じ込められるなど。しかも、絶えず包囲軍からの攻撃は続けられていたことだろう。
それにしても、とラウルは内心で不思議に思う。
いわゆる「歴史の収束」とでも言えばいいのだろうか。ラウルの世界とほとんど同じ条件が揃っているこの世界で、ラウルの知る歴史とは異なる流れになっているのは魔法による。一方で、魔法の存在をもってしても、同じようなことは起きるのだ。
まさに、1453年のコンスタンティノープルの陥落のようだ。ちょうど名前も同じコンスタンティノス11世。
今のブリタニア王やガリア王を思い返せば、ラウルの世界と同じ歴史に概ね収束していくのだろうか、とも思ってしまう。とはいえ、まったく根本的に異なる歴史を歩んでいる部分も多いにある、「同じようなことも起こる」というようなイメージが近いのだろう。