chapter. 4−6


「ミクラガルズが陥落する数日前。将軍たちは私に、一人で帝都を脱出するよう求めた。そんなことはできないと、当然私はすぐに拒否したさ。しかし彼らは、私に生きて欲しいと願った。生きてロタリンギアに逃れ、そこで東ラバルム帝国の復活を成し遂げて欲しいと」

「…、まさかこんな風前の灯火みたいになってるとは思わなかったか?」

「いや。むしろ、今の王であれば期待できると将たちは言っていたし、それについては私も同意だった。ラウル王、あなたの指揮したこの2年間、ロタリンギアは見違えるほど国力を増強させ、富が集積し、ブリタニアとの同盟でバランスを取り、再びウェスティアの盟主としての座を確固たるものにしようとしている。もし同じラバルムの血を引く者として、東ラバルム帝国の再建に手を貸してくれるのなら心強い。そう言った部下たちに、半ば無理やり、私はミクラガルズを脱出させられた」


東ラバルム帝国の滅亡は避けられないと、将軍たちは思ったのだろう。それはコンスタンティノスも同じだった。
だからこそ、西ラバルムの後継者であるロタリンギア王の庇護に入り、いつか東ラバルム帝国を再建できるよう努めて欲しいと、彼の部下たちは願った。

ラウルが断行してきた改革の数々と、それによるメティスやフリジア、アンドウェルピアなどの発展は、遠くミクラガルズまで商人を通して伝わっていたようだ。


「フン、身勝手な話だ。ラウルは然様な些末な次元では物事を見ていない。国家の矜持などでロタリンギアを発展させようとしているのではないのだ」


すると、カストロが代わりに答えた。どうやら東ラバルム帝国に対してそこまで反感などは持っていないようで、単に口が悪いだけの言葉である。


「というと?」

「民のためだ。このままではガリアとゲルマニアがロタリンギアを舞台に戦争となる可能性がある。そうなる前に、ロタリンギアに手を出せばただでは済まないと周辺国に知らしめる必要があった。それはひとえに、民の命と生活を守るためで、ラウルは王位も王国もさして重視していない」

「…なるほど。つまり、民の命や暮らしのために、王をやっている、というわけだね」


コンスタンティノスはちらりとラウルを見上げる。ラバルムの血を引く者としては褒められた話ではないだろうが、それが事実だ。


「そうなる。国や王位がなくなったっていいんだ、ただ、そこにいる人々が変わらず笑顔で生きていけるなら。生まれながらに、理由なく幸せになることが保障される社会であるならな。まぁ、同じラバルム皇帝家の血筋のあんたには、腹の立つ態度かもしれないけど」


しかし、コンスタンティノスは驚いたようにしたあと、ふっと破顔した。ロタリンギアに来て初めての、心からの微笑みだ。


「……いや。視点の次元が違う、とは言い得て妙だろう。君は、民というものが、一人一人の人間の群体であると理解している。誰もが理解していることに見えて、実はそうではないことだ。目に見えない誰かに思いを寄せることは難しい。それができる人物が王になった…ロタリンギアは幸運だ。そんな王に拾われた君たちも」

「貴様もだ、コンスタンティノス帝。よもや、無為に王宮で惰眠を貪って暮らすとは言うまいな」


それにはラウルが驚いた。まさか、カストロが自分から誰かを歓迎するようなことを言うとは。ポルクスも少し驚いている。
二人の驚きに気づいたのか、カストロはラウルに視線を向ける。


「…なんだ」

「や、お前がそんなん言うとはなって。『ラバルムの血は一人で十分』とか言って追放を提案するかと思った」

「失礼ながら、私も同じです、兄様。いえ、もちろん素敵なことですよ」

「お前たち……ラウルならばそうするだろうと思ってのことだ。俺としては、ラウルとポルクスさえいれば他の有象無象などどうでもいい」


若干顔を赤らめて視線を逸らしたカストロに、ラウルは小さく笑う。あまり笑うと拗ねられてしまう。


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