chapter. 4−7


なんにせよ、カストロが言う通りだ。ラウルとしても、すでにコンスタンティノスにやって欲しいことは考えてある。


「まぁ、カストロの言うことに間違いはない。コンスタンティノス、もしも特にこのあとの目的がないのなら、この国での役割を与えたい」

「っ…いいのだろうか、突然現れた元皇帝などが」

「問題ない、俺が王だからな」

「…はは、それは、その通りだ」


無理も道理も引っ込ませるのが王なのだ。コンスタンティノスは苦笑して頷いた。


「私にできることであればなんなりと、陛下」

「あぁ。じゃ、今日からハスバニア公に叙任する。ゆくゆくは下ロタリンギア公だ」

「なっ、ラウル、それはさすがに急すぎるだろう」


ラウルの言葉に、カストロは驚いて諌める。ポルクスも目を見張っていた。コンスタンティノスはさすがに地名には疎いようで、よく理解していない。


「それは、重大な役職だろうか。もちろん、この国で公位は王の下にあたる地位だと理解しているが…」

「下ロタリンギア公は、これから創設する予定の公位で、アルドゥース高地より北側一帯を統治する。主要都市は、『ウェスティアの十字路』と呼ばれる交易都市ロヴェン、そして金融都市アンドウェルピア、鉱山都市ルーティカといったところだな。ざっくり言えば、この国の税収の6割を占める地域にあたる」

「ラウル様、さすがに下ロタリンギア公位はラウル様が直接担われた方がよろしいでのは…?」


ポルクスは滅多に意見しない。その彼女が言うほどだ、自分でも極めて大胆な決定だと理解している。だが、この打算はうまくいくと確信していた。


「確かにこの公位は重要だ。だからこそ、東ラバルム皇帝の座にあったコンスタンティノスに任せたい。なにせ、ミクラガルズを2か月保たせた武人だ。当然、強い魔法を持っているだろ」

「……あぁ。私の魔法は結界魔法。ミクラガルズを丸ごと覆う巨大な結界を展開可能だ」

「なに…!?」


双子たちが息をのむ。さすが皇帝家、その魔法はやはり一級品だ。ラウルの読み通り、防御系の力を持つ人物でもあったようだ。


「つい先日即位したガリア王シャルルは、下ロタリンギア地域にあったリウガウ公の家柄だった。マルテル王の次のガリア王が分家筋から選出されることは分かってたからな、一番可能性のあったリウガウ公、ハリスタル家を警戒していた。真っ先にリウガウ公を廃してルーティカ伯に再編、ハスバニア公の配下に入れたから、ハリスタル家は同名の都市ハリスタル市のみを統治する領主に零落している。コンスタンティノスには、このハリスタル家を監視してほしい」

「レッツェ勅令…王国再編令のことだね。噂は届いていたよ、ロタリンギア王が領内の貴族たちを次々と解散させて国土を再編していると。なるほど、確かにガリア王を輩出した家が統治する領土があれば、継承権を盾に戦争の火種になってしまう」

「あぁ。とりあえず応急処置としてハスバニア公を立ててルーティカ伯として組み込んでるけど、いずれハスバニア公を伯に格下げしたうえで、下ロタリンギア公を創設するつもりだ」


子のいないまま亡くなったマルテルに代わって、つい数週間前にガリア王に即位したのは、ラウルより2つ年上の若い王シャルル・ド・ネストリー=アリスタル。
ガリア王家ネストリー家の分家であるハリスタル家、ラバルム語ガリア方言でアリスタル家の出身であり、かつて下ロタリンギアに存在したリウガウ公家でもあった。つまり、シャルルはガリア王だけでなく、いずれはリウガウ公というロタリンギアの一部を継承することも可能な状態だったのだ。
それを危惧して、リウガウ公はラウルがレッツェ勅令で真っ先に廃止、現在はルーティカ伯に再編された上でハスバニア公の配下に入っている。

当面はコンスタンティノスをハスバニア公につけて旧リウガウ公家であるハリスタル家を監視しつつ、ほかの地域の再編を手伝ってもらう。やがては、下ロタリンギア公として全域を束ねてもらうつもりだ。


「下ロタリンギアはもともと豊かな分、扱いが難しい。コンスタンティノス、あなたには現地で直接動いてもらい、下ロタリンギア公国への外国の干渉を防ぎ、反乱勢力を抑止して、人々の暮らしを守って欲しいんだ。いずれ東の情勢が落ち着いたら、東ラバルム帝国の再建を手伝おう」

「…承った」


本当にそんな日が来るかどうかはわからない。コンスタンティノス自身、東ラバルム帝国を再建できるか不透明だと思っているだろう。それでも、コンスタンティノスはラウルの下で下ロタリンギア公になることを受け入れてくれた。それしかなかった、というのももちろんあるはずだ。

そんな出会いの日から、1年以上が経った。


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