chapter. 4−9


二人はその後、いよいよアンドウェルピアに転移した。
人目のない場所で転移魔法を使い、今度はアンドウェルピア伯城のコンスタンティノスの部屋に移動。当然、この城の人々はコンスタンティノスがロヴェンからアンドウェルピアに移動しているとは知らないため、やはりコソコソと身を隠して城を出て、いよいよ大都市の大通りへと躍り出る。

アンドウェルピア、下ロタリンギア公国最大の都市であり、近いうちにメティスを抜いてウェスティア最大の都市になるだろうと目されている交易都市である。

ラウルの世界ではベルギーのアントウェルペン、英語でアントワープにあたる都市だ。

アンドウェルピアは、ガリア北東部から出てロタリンギア北部を流れるスヘルト川の河口域に位置する、貨幣鋳造所を持った大都市であり、天然の良港を有する港町である。
かつては、スヘルト川中流に沿って、ロタリンギアからガリアに突き出したヘネガウ伯領で産出される羊毛を使った毛織物産業が有名だった。今でも有名だが、アンドウェルピアはラウルの即位後、飛躍的な進歩を遂げている。

ヘネガウは、フランスで言えばノール県南部一帯にあたる地域であり、モンスにあたるカストリロークス市を中心都市とする。
ヘネガウ伯領では羊毛生産がメインの産業だったが、東部ではラウルが王立ヘネガウ鉱山会社を設立して炭鉱を開発。冬場の燃料用として石炭鉱山を開いて、石炭の一大産地となった。

羊毛と石炭はスヘルト川を通して下流のアンドウェルピアに運び込まれ、アンドウェルピアから海外に輸出される。

また、ラウルはもう一か所、アンドウェルピアより南に大規模な砂鉄鉱山を開発させた。
アルドゥース高地の北端、モース川がロタリンギアを南北に貫いて流れてから東に流れを変える場所に位置する都市デオナンティと、そこからモース川に沿って東に進んだところにあるルーティカ。それぞれベルギーのディナンとリエージュにあたる都市であるが、両都市の南側に国内最大の砂鉄鉱山を開いた。
これは王立デオナンティ鉱山会社と王立ルーティカ鉱山会社が開発・管理しており、その砂鉄は、デオナンティからはモース川を遡上してセダヌムやヴィルドゥヌムで上ロタリンギアに運ばれ、ルーティカからはモース川河口のトゥレドリスから輸出された。
また、街道からアンドウェルピアにも運び込まれた。

下ロタリンギア公国中央部に位置するハスバニア平原では、野菜や果実の栽培が行われていたが、フリジア産の泥炭を使うことで収量を増加させ、メティス産のカブによって畜産も盛んになった。

こうして、アンドウェルピアには、ヘネガウやブリタニアの羊毛を使った毛織物産業、ルーティカの砂鉄を使った金属加工業が花開き、ハスバニア産の野菜などの流通市場などが賑わい、それを促進するべく、ラウルはアンドウェルピア常設市場を開設した。
また、王立取引所と王立為替取引所も同時に開設することで交易機能を最大限に高め、ハラレムで造船された大型商船を使って大規模な海外貿易も進展する。


「あれが、君の指示で建築が急ピッチで進められるアンドウェルピア大学だ。すでに先行して3学部が開設されている。残る7学部も教授などの選定が大詰めだ」

「これで名実ともに、この街がウェスティア最大の都市になるな」

「すでに多くの人々が集まっている。もう、とにかくいろんな人間が集う街だよ。ヒト、モノ、カネがすべてアンドウェルピアに集積されている。そのわりに、王立取引所と為替取引所のおかげで物価と貨幣価値は安定している」


王立取引所は、物品取引を行う商館のことだ。といっても、現物の取引ではなく、契約をする場である。王室が保証人になることで契約を促進し、大口取引を円滑にしつつ、それによって物価が乱高下することを防いでいた。
為替取引所は、ブリタニアやゲルマニア、ガリアの通貨とロタリンギアの通貨とを交換する金融市場であり、契約書面の売買、つまり債権の売買も可能にしている。国際貿易を行う上で必須の機能であるのと同時に、ロタリンギアの通貨が跳ね上がって貨幣経済が混乱、あるいはヒートアップしすぎてバブル化することを防ぐ。

王立取引所では契約仲介手数料で、為替取引所では両替手数料で莫大な利益が王室にもたらされている。

そして目玉がアンドウェルピア大学だ。
ラウルが最近着手したもので、アンドウェルピアの他、最古の都市トレヴェリス、現王都レッツェ、旧王都メティスの4都市に開設している。
その中でもアンドウェルピアは最大規模となる10学部を開設予定だ。総合大学として、文系理系問わず、経済学や社会学など広い範囲を研究できる。

トレヴェリスは古い街のため、史学部、考古学部、哲学部の3学部。レッツェ大学は王都のため、政治学部、法学、そして魔法学部が設置される予定だ。
メティス大学は農学部や医学部など、主に理系を中心とした8学部が設置される。

また、アンドウェルピアとメティスでは、貴族や商人を対象にした富裕層向けの高等学校を大学に併設することで、王室の影響下にある教育を受けさせて貴族・商人の思想をある程度管理する。

さらに、いずれは一般的な初等・中等教育機関を設置するべく、教員を養成するための王立教導院を開設。国内19か所の大都市に教員育成機関を設置することになっている。


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