chapter. 5−1


お忍びでコンスタンティノスと下ロタリンギア公国の都ロヴェンとアンドウェルピアを視察したラウルだったが、さすがにその次の視察先は公式での訪問を予定していた。

フリジア公国モースラント辺境伯領の首都、トゥレドリスである。

ラウルの元いた世界ではオランダのドルドレヒトにあたるこの街は、モース川の河口部に位置する大都市であり、最新式の星形要塞と堀に囲まれた水上要塞都市でもある。

フリジア公はラウルが兼任しているが、実はモースラント辺境伯はラウルのものではない。しかも、ロタリンギアの人間でもなかった。


アンドウェルピアから瞬間移動を終えて、トゥレドリスの辺境伯城に転移する。一昔前に比べればだいぶ豪華になったし、それ以上も可能であるはずの応接室だったが、現在の持ち主の意向だろう、かなり落ち着いた無骨な印象の部屋だ。

その部屋の中央、忽然と現れたラウルに、金髪で大柄な男と、紫の髪に精悍な顔つきのさらに長身の男が揃って跪く。
質素な部屋であるため、余計に二人の輝かしさが目に付いた。


「ようこそおいでくださいました、ロタリンギア王」

「ご足労をいただいてしまい誠に申し訳ございません」


金髪の方がガウェイン・オブ・オルクネイヤール、モースラント辺境伯でありこの城の主である。
そして紫の方はランスロット・オブ・ベンウィック、アンドウェルピアより海側にあるスヘルトラント辺境伯で、普段は首都ベルギスにいる。ベルギスはアンドウェルピアの外港のような役割でもある港湾都市だ。

ガウェインは20歳、ランスロットは25歳だが、その貫禄はいっぱしの貴族そのものである。
それもそのはず、二人はブリタニア王国の円卓の騎士を構成する歴戦の騎士にして、それぞれブリタニア王国においてアルバ伯、カイルウィスグ伯を兼任しているのだ。

アルバ伯領は、ラウルの知るスコットランド北東部を意味し、家名のオルクネイヤールはオークニー諸島のことだ。カイルウィスグ伯はコーンウォールの古都エクセター周辺を意味する。

ランスロットはもともとブリタニア王領ブルトン公を世襲したベンウィック家の人間であり、当初はガリアに住んでいた。しかしガリア戦争で先代王マルテルがランスロットの父バン公率いるブルトンを落とし、ランスロットの家は所領を失い、ブリタニア本土のカイルウィスグ伯を叙任された。


そんな二人がなぜロタリンギア王国内の領土を封じられているかと言えば、これがロタリンギアとブリタニアの同盟の証であるからに他ならない。

恭しくガウェインに手を引かれ、ラウルは柔らかな一人用のソファーに腰掛ける。対面に、ガウェインとランスロットが改めて跪いた。


「改めまして、この度はトゥレドリスまで遥々お越しくださり誠にありがとうございます。陛下におかれましては、数々の栄えある大改革の中、ご足労いただく形となってしまい、大変恐縮でございます」


この地の伯であるガウェインがまず挨拶を行うが、応接間から使用人がいなくなったことを確認し、ラウルは手で制する。


「ご丁寧にありがとう。まぁ、ここまででいいぞ。なにせ、このあと散々同じようなことを言わなくちゃならないからな」


そう、ラウルはこのあと、二人を伴ってブリタニア王国の王都キャメロットに転移することになっている。
これはロタリンギアの国王による公式訪問であるため、ブリタニア王国も国賓として最大限の歓待を予定している。口上はそれはもうすごいことになるだろう。


「は、御意に」


ガウェインも応じてすぐに口上をやめる。少し間をおいてから、話を切り替えた。


「…それでは陛下。ブリタニアへの転移まで少々お時間がございます。貴賓室で待機されますか?」

「あー…いや、この声、外に集まってるだろ」

「…申し訳ありません。一応、大々的に触れ込まないよう伝えてはおりましたが…かつて飢餓と貧困をあなたに救われたこの地の人々は、陛下に対して並々ならぬ好意を持っております。トゥレドリスの民だけでなく、ドレスタッドやデルヴェン、ノヴィオマグスからも民が集まってしまいました」

「陛下の行幸ともなれば、フリジアの民は一目でも陛下の御姿を拝したいと思うのでしょう」


ランスロットも付け加えたが、別にそれは気にしていない。あまり、こういう露骨な王様ムーブはしたくないのだが、それが必要な場面もまた知っている。
ラウルは立ち上がり、二人に指示を出す。


「テラスへ案内してくれるか。いや、場所は知ってるけど、一応二人も伴わないとだからな。ちょっと付き合ってくれ」

「我が喜びにて」


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