chapter. 5−2


ガウェインは笑顔で頷くと、立ち上がってすぐに扉へ向かい、大きな両開きの扉を開いて支える。
その間にランスロットがラウルの少し後ろに続くようにして、歩き出したラウルについていく。右手をかざし転移魔法を使えば、その手には国内での行幸用に使う深紅のマントが現れる。重いそれはすかさずランスロットが受け取って、ラウルの背中から腕を回してマントを装着させた。

サファイアのブローチで留めて廊下に出ると、ガウェインとランスロットが背後に並んで続く。広い廊下では、使用人たちが次々と壁際に寄り、深々と頭を下げた。

その合間を通って、日が差す正面テラスに向かう。

近衛兵がガラス扉を開き、ラウルがテラスに出ると、3階の高さのテラスからは城の前の広場を埋め尽くす群衆が一気に見渡せた。
途端に、耳を貫くような盛大な歓声が轟いた。

「陛下!」「ロタリンギア王万歳!」「万歳!!」「ラウル王に栄光あれ!!」と口々に叫ぶ人々に手を振って、表情が引きつらないように必死に堪えながら、笑顔を浮かべて群衆に応えた。
熱気もあって、5分ほどでラウルはテラスを離れて薄暗い廊下に戻る。


そそくさと貴賓室に入ったラウルは、再びガウェインとランスロットと三人になり、ようやく長い溜息をつく。


「はぁ〜〜…慣れない……」

「まったく不慣れな様子などお見せになられませんでしたよ」


いたわるようにランスロットは言って、ガウェインもワインを注いでラウルの前のテーブルに置く。


「ええ、お若くとも威厳、貫禄、気品、すべてを示しておられました。まるで太陽がもう一つあったかのようです」

「…お前な」


息を吸うようにそんな口説き文句を言ってくるガウェインに呆れつつ、ラウルはソファーに体を沈めつつ、ぽつりとつぶやく。


「まぁ…さっきまでロヴェンとアンドウェルピアをこっそり視察してきたのもそうだけど…自分のやったことを、こうして形で見ることができるのは、なんだか嬉しいもんだな。フリジアの人々が飢えず、寒さをしのげる冬を越すことができた上で、ここにいる。あの笑顔が曇らずにいるなら、頑張ろうって思える」


ガウェインとランスロットはそんなラウルの言葉に少し目を見張ってから、ふっと破顔した。
そして、ガウェインがラウルの傍に膝をついて、すぐ近くで見上げる。


「あなたは王になるべくしてなったのでしょう。我が王があなたを一目見て同盟を決断したのも、そのような気質を理解しておられたからに違いありません」

「我々がブリタニア王とロタリンギア王の双方に仕える身となったのは同盟の証ではありますが、それ以上に、素晴らしい王に二人も仕えることができる、という僥倖を感じずにいられません」

「……褒められても、モースラント辺境伯領とスヘルトラント辺境伯領の割譲はしないぞ」


二人揃ってそんなことを言ってきたため、顔のいい二人であることもあり、ラウルは思わず視線を逸らす。
それに対して、ランスロットはお手本のような笑顔を向けた。


「まさか。あなたにお会いする理由が減ってしまいます」

「…あのさ、お前ら、よその国の王に対して口説くようなこと言うのやめた方がいいぞ、勘違いされるから」


ガウェインもランスロットも、以前からそうだが、こうしてラウルに口説くようなことを言ってくることがある。それそろ釘を刺そうと忠告してやれば、二人はきょとんとする。
そして、今日一番の輝かしい笑顔になった。

ガウェインはラウルの右手を取って恭しくキスを落とす。


「これは喜ばしいことです。口説かれている、という自覚をお持ちであられた。伝わっていないのかと不安でした」

「ええ。ご心配なさらず、陛下。我々ははっきり口説いておりますので」


日ごろ、誰に対してもフランクな態度でいいと言ってしまうラウルだ、特に礼儀正しいこの二人も基本的には礼儀を守るが、こういうときは、ラウルを年下の初心な生娘のように扱ってくる。正確には、この世界では霊薬によって男性でも妊娠可能で婚姻も可能なため、生娘という概念が薄いのだが、理解としては正しいだろう。


「…お前ら、アーサーに言いつけるぞマジで」

「王からはお許しを頂戴しております」


いよいよラウルは二人の上司の名前を出してやったが、ガウェインは分かっていたように答える。何を許可しているのかあの男は。


「……なるほどな。今日の議題が一つ増えたみたいだ」


米神をひくつかせて言うと、ランスロットはなおも口を開く。


「ですが、もしも我が王と陛下が婚姻なされるようであれば、我々にとってこれほど喜ばしいこともございません。素敵な響きではありませんか。同君連合」

「はっ倒すぞ」


今日のキャメロット訪問は、ブリタニア王アーサーへの謁見と会議だったが、これは話すことが多くなりそうだ。
とりあえず、ラウルはやってられるかとばかりに、ワインを一気に飲み干す。この世界に来て良かったことは、酒にやたら強くなったことだった。


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