chapter. 1−6
「たまに、お前がずっと年上のような気がするほど、お前の先見の明に驚くことがある」
「まぁ兄様、それではまるでラウル様が老いていると仰っているようなもの。大人びた、いえ、大人顔負けのご慧眼です」
「補足ありがとうポルクス。カストロがからかってくるときの調子じゃなかったから何も言わなかったけど、そうじゃなきゃこの窓から突き落としてた」
爽やかな風が吹き込む窓を示して言えば、カストロはばつの悪そうな顔をして、ポルクスがくすくすと笑う。
カストロは話題を変えるように咳払いをした。
「即位と同時にキャメロットに乗り込んでブリタニアと同盟した、その時点で、ウェスティアにその名を轟かせた。この胆力は大人でも持ち合わせるものではあるまい」
「あれだってお前らがいなきゃさすがに躊躇った」
「やらないとは言っていないあたりがラウル様らしいですね」
ラウルは、このレッツェ勅令と国内改革を実行するにあたり、即位してすぐに外交戦略を実行した。
国家安全保障は歴史的に様々な方法がとられてきたが、現代の国際社会の基本である集団安全保障は高度な概念であるため、基本的価値観などを共有しないこの世界では使えない。
そうなると、外交による勢力均衡が最も有効な手段となるため、ラウルは周辺国との協力を通じて、ロタリンギアの安全を外交で保障する方針をとった。
その最初の相手こそ、海を渡ったブリタニア王国である。
この世界では、大西洋をアトラス海、北海をノルド海と呼ぶが、アトラス海とノルド海を隔てる大きな島国がブリタニア王国だ。その西隣にはヒベルニア王国という小さな島があり、それぞれイギリスとアイルランドに相当する。
実はブリタニアも王が変わったばかりであり、ガリアとの戦争末期の1268年に若い王、アーサー王が即位していた。
ラウルの10歳年上で、18歳でブリタニア王となっていたアーサーは、光の魔法とそれを使用した聖剣の力によって大いなる力を持っており、潜在敵国であるガリア・ゲルマニアから警戒されている。
そのアーサーのいる首都キャメロットの王城に、ラウルはカストロ・ポルクスらとともに瞬間移動で乗り込んで、その場で同盟を結ぶという破天荒なことをしてみせた。
アーサーは戦争には否定的な立場だったものの、国内には依然として戦争を求める声もあり、ラウルと目的が合致していたことから、同盟にこぎつけた。
同盟に際して、ラウルはオランダにあたる国土北端の沿岸部、フリジア公国から、一部の領土の伯位をブリタニアの貴族に与えた。
それがモースラント辺境伯領とスヘルトラント辺境伯領であり、それぞれモース川、スヘルト川という大きな河川の河口域にあたる。しかも、この河口地帯はもう一つの巨大河川レーヌス川の河口の一部でもある。
モース川はマース川、スヘルト川はスヘルデ川、そしてレーヌス川はライン川に相当する河川であり、モース川はロタリンギアを南北に貫き、スヘルト川はガリアに、レーヌス川はゲルマニアに通じる河川である。
つまり、河口をブリタニア貴族に与えることで、ブリタニアがいつでも川を遡ってガリアとゲルマニアの首都圏に達することができるようになったのだ。
「モースラント辺境伯ガウェイン卿、スヘルトラント辺境伯ランスロット卿、ともにラウル様と親しいご様子。ただ、あの二人はブリタニア人である前にどうも陛下に色目を使っているように思えます」
「その通りだポルクスよ。あの二人はそれ以前の問題、外交云々より前に男として警戒すべき相手だ。ラウルもそれはゆめ忘れるな」
「分かってるって、何度も言われてんだからさすがに覚えた」
ガウェインもランスロットも、ブリタニアに己の領地を持っているため、ロタリンギアとブリタニアを行ったり来たりしている。
その合間にレッツェを訪れてラウルと謁見することもあるが、確かにあの二人はなぜか王妃を口説くようなテンションで接してくる。
ちなみにこの世界、ラウルが最も驚いたのは、男性でも妊娠できる霊薬があることだ。そのため、同性婚は比較的珍しくなく、ラウルは最もこの点で動揺している。
とりあえずは、この双子が目を光らせていることもあって、ラウルの身に危険が及んだことはない。
いずれにせよ、国内でこれだけの改革をやってしまうと、国内で結婚相手を見つけるのは難しい。それもあって、ラウルの結婚相手、という話はとても今できることではなかったため、これ幸いとラウルはこの話題を避けていた。
とにもかくにも、ラウルはロタリンギアに平和が訪れるまで駆け抜けるしかないと自覚している。