chapter. 5−3


予定した時刻となったため、ラウルはガウェインとランスロットを伴い、転移魔法を使用する。使用人には移動することだけ伝えたうえで、貴賓室から瞬間移動を実施した。

あらかじめ先方から指定されていたキャメロット王城の応接間に転移を完了すると、豪奢な飾りタイルが敷かれたエトルリア式の床に降り立ち、彫刻や絵画、観葉植物で飾られた煌びやかな壁が目に入る。
シャンデリアが照らす明るい部屋は広く、学校の教室ほどはあるだろうか。

そして、控えていた使用人たちが一斉に腰を折って頭を下げ、護衛の兵士は膝をつく。

その先頭にいた長髪の背の高い男が、優美な所作で跪き、ラウルに首を垂れる。


「ようこそおいでくださいました、ロタリンギア王」

「久しぶりだな、ベディヴィエール卿」


外見のわりに低い声で歓迎の挨拶をしたのは、ベディヴィエール・オブ・コルネウス、100年ほど前までガリアにあったコルネウス公領の家であり、ガリア戦争で領土を喪失した祖父の代以来、ブリタニア本土で伯位についている。


「ええ、ご無沙汰しております。こうしてまたお目にかかれた喜び、表現する言葉を見つけることができません。我ら円卓の騎士、そしてブリタニア王国はあなた様に最大限の歓迎を示しましょう」

「他国の王を迎えるのは煩雑だっただろ。迷惑かけたな」

「まさか。ウェスティアの盟主、古きラバルムの末裔にして若き改革王たるあなたを国賓としてお迎えできることは、ブリタニア王国の歴史に強く刻まれるでしょう」


さすが、王の秘書官のような役割を果たす男だ。すべての返答が百点である。
とはいえ、いつまでも相手をさせるわけにはいかない。


「俺はとりあえずこの部屋で待機してればいいか」

「はい。ガウェイン卿はカレドニア公、ダル=リアータ伯と式典の打ち合わせを。ランスロット卿はヘン=オグレッジ公と合流してください」


ベディヴィエールは二人にそれぞれ指示を出す。どうやらガウェインとランスロットはここでいったん別れることになるようだ。
ラウルの記憶では、カレドニアはスコットランド北部のハイランド地方のことだ。インヴァネスにあたるクレイグ=ファトリグが首都である。ブリタニア王国では、カレドニア公の下にダル=リアータ伯とアルバ伯があり、ガウェインはアルバ伯を兼任している。

一方、ヘン=オグレッジ公国はスコットランドのローランドからイングランド北部にかけての地域であり、首都はヨークにあたるエブラーコンだ。グォートディン、ローディアン、イスラードクラッド、レッジド、エルヴェドの5つの伯位が下位に属する。

カレドニア公はスカサハ、ヘン=オグレッジ公はブーディカというそれぞれ女性が担っているが、どちらも女傑として知られ、現ブリタニア王のアーサーより前からブリタニアで勇猛さを発揮してきた。
そのため、どちらも「女王」という愛称で国民どころかアーサー王からも親しまれている。

ガウェインはベディヴィエールの指示を聞いて、立ち上がった背の高い彼に尋ねる。


「ベディヴィエール卿、それではロタリンギア王に誰がもてなしを?」

「当然、我らが王です」


そう答えるのを待っていたかのように、応接間の扉が開かれて、廊下から明らかに放っているオーラが異なる人物が入ってきた。
濃紺のブレーとシュールコーに、袖のないシュールコーから白いコットの袖が覗く。それらを腰で銀と革のベルトによって留めて、コットの袖は大陸で流行っているゆったりとしたものではなくしっかりと銀のバックルで締めている。
それらの上から深紅のマントを纏い、そして腰には剣を携えていた。

アーサー・ペンドラゴン、ブリタニア王であり、金髪に翡翠の瞳が輝かしい青年だ。
ラウルの10歳上の26歳であるものの、ブリタニアの王権の証である聖剣は、それを継承すると持ち主の老化を停止させ、不老状態になる。ただし、不死ではない。そのため、見た目は彼が即位した18歳のままだ。


63/174
prev next
back
表紙へ戻る