chapter. 5−4
「ラウル!会いたかった、息災だったかい?」
そして、アーサーは全面に喜びを浮かべて駆け寄ってきた。普段なら絶対こんなことはしないだろうに、見知った相手しかいない空間だからか、感情を思い切り表に出していた。
もちろん、ガウェイン、ランスロット、ベディヴィエールはすぐにその場で跪いている。
すぐ目の前にやってきたアーサーに、ラウルは少し呆れつつ応じる。
「まぁな。忙しすぎて1日が過ぎる速さに目を回しそうだけど…ベディヴィエール、アーサーも来たことだし、あとは時間までここで待機してる」
とりあえず、いつまでもベディヴィエールたちをそのままにしておくのも心苦しいため声をかければ、アーサーも頷いた。
「すまない、気が利かなかった。君たちもそれぞれ持ち場に戻ってくれ」
「は、」
ベディヴィエール、そしてガウェインとランスロットはそのまま部屋を後にする。また、アーサーは使用人たちも部屋から下がらせた。これで室内には二人だけになる。
アーサーは近くの大きめのソファーに腰掛けると、膝の間を示す。
「さあ、おいで」
「…いや、距離感おかしいだろ」
「そうかい?どうせこのあとは歓迎式典でずっと離れていることになる、今くらい、いいだろう?」
「…はいはい。あ、俺ペリー酒飲みたい」
「用意してあるよ」
ラウルはアーサーの膝の間に仕方なく腰を下ろし、アーサーに後ろから抱きしめられる。正面のテーブルには、様々な種類の酒瓶が置かれており、菓子や果物も用意されていた。
アーサーが後ろでラウルの匂いを嗅いでいるのに引きつつ、ペリー酒を自分で注いで自分で煽る。
「やっぱ本場のはいいな。さっきロヴェンで飲んだばっかだけど」
「今年のものは特に出来がいい。ロヴェンの貴族たちの口には合っているかな」
「いや、普通に庶民向けに流通してるから、みんなうまそうに飲んでたぞ。貴族は最近、果実酒だとレッツェ夏季市場で販売されるチェリー酒にご執心だな」
「…そうか……こちらでは貴族の中でもさらに高位の貴族しか飲めないものが、ロタリンギアでは庶民が消費者なのか…」
普通に答えたところ、背後からそんなダメージを受けた声が返ってきた。やべ、と内心で思いつつ、面倒なので特にフォローはいれない。
そもそも、貧しい島国であるブリタニアとウェスティアで最も豊かなロタリンギアとでは、生活の質はまったく違う。このキャメロットの城だって、確かに豪華ではあるが、恐らくロタリンギアでは中の上、といったところか。レッツェ城よりは華やかだが。
「…とはいえ、我がブリタニアでも、農作物の質はかなり改善した。君がもたらしてくれた、改良三圃式農法のおかげだ。フリジアから輸入している泥炭にも助けられている」
「そうみたいだな。こっちも、羊毛や毛皮を諸外国より安く手に入れられてるから、アンドウェルピアの毛織物産業が原料費を抑えて優位に立ててる。最近はホップビールも急成長してるだろ」
「あぁ、グルートビールに取って代わるものだ。子供でも飲めるしね。さすがにロタリンギアほど産業を多角化するには至っていないけれど…」
ブリタニアからロタリンギアに輸入されるものの大半は、羊毛や毛皮などの畜産加工品原料、あるいは大麦やホップでつくるビールである。
ビールは、当初ハーブなどによって醸造を安定化させるグルートが一般的だったが、より癖がなく雑菌を抑制できるホップの方がブリタニアでは盛んになっており、ロタリンギアでも流行の兆しを見せている。
「ガリア戦争の終結から4年か。あっという間だな」
「…本当にね。終戦後すぐ、君がブリタニア人帰還令をガリア王に出させていなかったら。即位するなり同盟を結びに来てくれていなかったら。今頃、カレドニア公国やヘン=オグレッジ公国北部は悲惨なことになっていた」