chapter. 5−7


しばらく応接間でアーサー直々の接待という名の軽いセクハラを受けながら過ごすうちに、歓迎式典の準備が整い、そこから数時間にわたる式典が大々的に行われた。

式典の最後には、王城の正面テラスにアーサーとともに出て、集まった群衆に手を振るパフォーマンスまでさせられた。
ただ、フリジア同様、極度の貧困や飢饉を脱したのがラウルの改革手法によるものでもあったため、ブリタニアの国民にも受け入れてもらっているようであった。民主主義国でもなければ民衆の力も強くないこの時代、ラウルの生きた現代国際社会のように「世論」や「国民感情」というものは然程気にすることではないのだが、なんであれ貿易や外交関係を円滑に進める効果はプラスであることに変わりない。

ようやく式典が終わると、いよいよ本番だ。16時を知らせる鐘楼の音が響く中、ラウルはアーサーとともにベディヴィエールに先導され、王城の一角、会議室に通される。
円卓の会議室とは異なる場所で、より貴賓室としての性質を持っている豪華な場所だ。なんでも、今回の会談のためにしつらえたそうだ。

中に入ると、丸テーブルに着席していた人物たち、男性二人と女性二人が立ち上がり出迎える。

時計回りに、ガウェインの弟であり円卓の騎士の一人、アグラヴェイン卿、宮廷魔術師マーリン、そしてヘン=オグレッジ公ブーディカ、カレドニア公スカサハである。

ベディヴィエールは一礼して場を外し、小ぶりな円卓の座す部屋に6人が着席した。アーサーはラウルの左側に座り、ラウルの右側にはマーリンがいる。

まずはマーリンが口を開く。


「改めまして、栄光のラバルムの血族にして大陸で最も高貴なるロタリンギア王。ブリタニアに救いの手を与えたもうた良賢王よ、ブリタニア王国へようこそ」

「歓迎いただき感謝する、宮廷魔術師マーリン殿。複数の魔法を使うことができるという世界でも類を見ない稀代の魔法士と聞く」

「陛下の魔法のごとき改革の数々の前では些末なことです」


にこやかにするマーリンだが、なんとなく胡散臭いというか、別に大したことは言われていないのに腹が立つ。
そもそもこの場には6人だけなのだ、公式の会談ではあるが、ラウルとして実利に時間を割きたい。


「…さて。挨拶はここまでで結構だ。利益のある話をしよう」


ラウルがそう切り出すと、対面のスカサハは面白そうに笑った。


「ほう、さすがガリアの吶喊王を12歳で論破しただけある。無駄なことはせぬ主義か」

「外交式典は終わってるからな。使用人やほかの貴族の目があるわけでもない。なにせ、問題は山積みだ」

「徹底した合理性、嫌いではないぞ」


王を戴くこの国で、愛称としてクイーンと呼ばれる二人の女傑。
そのうちの一人、スカサハは、もともと海の向こうにあるヒベルニア島、ラウルの知るところではアイルランドからやってきた人物だ。

アーサーの祖父の代で国家がバラバラになったため、アーサーの父ウーサーがブリタニア南部を支配していたが、当時ブリタニアは事実上、統一状態を喪失していた。
このとき、北部のカレドニアを支配していたのがスカサハで、このときは真に女王だった。

同じく、島の中部一帯を統治していた女王ブーディカと合わせ、3人の王がいたことになる。

その後、ウーサーがスカサハ、ブーディカと協議して、ノルディアやガリアとの戦いのために国をまとめることに合意。ここに再度ブリタニアは統一された。
そうしたブーディカやスカサハへの敬意から、人々やアーサーは彼女たちを女王と今でも呼ぶのだという。

そんなスカサハに、もう一人の女王は苦笑する。


「もう、鍛えがいのありそうな人見るとウズウズするの、丸わかりよ。ヒベルニアの槍使い君みたいなのはそうそういないんだから」

「む、そういうつもりはないが…そうさな、ロタリンギア王は槍より弓の方が似合いであろうな」

「そういうことじゃなくて…もう、ごめんなさいね」


ブーディカはずれているスカサハに笑い、朗らかにこちらを気遣った。母親気質な人だ。
一方、アグラヴェインは取りなすように咳払いをする。


「…それでは、ロタリンギア王もお望みでおられることですので、本題に入らせていただく。まずは両国共通の懸案である、ガリアの動向から」


アグラヴェインの低く渋い声で、ようやく会議が始まる。アーサーは頷いて、アグラヴェインから引き継いだ。


「現在、ガリア王シャルルはピレネア山脈を越えてヒスパニア半島への侵攻を計画している。原因は、対岸のリュビア大陸の国家、マウレタニア王国の分家が王室を乗っ取ったヒスパニア王国が、山脈を越えてガリアへの攻撃を行ったことだ」


フランスとスペインの国境になっているピレネー山脈。険しい山を越えてまで侵攻しようとしているのは、ヒスパニア王国から仕掛けたからに他ならない。
海を挟んでアフリカにあたるリュビア大陸から、マウレタニアという王国の王家がヒスパニア王国を乗っ取ったのだ。これにより、ヒスパニアはガリアに越境攻撃を開始。ガリアはマウレタニアの傀儡王室を滅ぼすため、ヒスパニア半島への侵攻に踏み切った。

ヒスパニア王国は、スペインの東半分にあたる地域を概ね占めている。南部アンダルシアにあたる場所はバエティア王国、ポルトガルからスペイン西側半分にあたる場所はルシタニア王国、そしてスペイン北部沿岸一帯はアストゥリアス王国という。


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