chapter. 5−8


「我がブリタニアは、ルシタニア王国、バエティア王国とは同盟関係にあり、アストゥリアス王国は中立。ヒスパニア王国も中立だったが、今回ガリアとの戦争に踏み切った。ガリア戦争で疲弊していると判断したんだろう」

「ガリア軍は現在、トローザ、ナルボアにそれぞれ1万を配置。山岳部の峠道と沿岸の街道、両方から一気呵成に攻めつつ、海上からもマッシリアより直接海軍が王都バルツィノに向かっています」


アグラヴェインは最新の戦況を共有する。
トローザはトゥールーズ、ナルボアはナルボンヌにあたるガリア南部の大都市だ。ヒスパニア王国の首都バルツィノはバルセロナのことであり、比較的ガリアに近い場所にある。

スカサハは先ほどまでの楽し気な表情でこそないが、泰然とした風体で口を開く。


「…ふむ。ガリアは原初の領土を取り戻そうとするか、ということが焦点であろう?どうせマウレタニア朝のヒスパニア王は内陸南部のコンカにでも避難するだろう。そのままバエティアまで攻めても不自然ではない」

「そうねぇ。シャルルだっけ、新しいガリア王はどんな人なの?」


ブーディカはラウルに尋ねたが、ラウルは首を横に振る。


「あいつが即位したのは去年、俺の即位から2年後のことだ。俺の即位時点ですら、ガリアとゲルマニアは王族ではない代表を送ってきたほどだ。当然、ロタリンギア王の俺からの戴冠式は受けていない」

「つまり会ってないってことね」

「…いや、あるにはあるけど…昔のことだ、王としてのあいつは知らない」


シャルルはもともとハリスタル家の嫡男として、本来はロタリンギア王国のリウガウ公を継承するはずだった。そのため、ラウルが幼い頃にメティスの宮廷で貴族が一堂に会する場では会う機会もあった。
しかしその後、ラウルが始めたレッツェ勅令でリウガウ公は廃止され、ハリスタル家は公位を喪失。シャルルはガリア王だけを継承し、ラウルとの関係はなくなった。

2歳上のシャルルは快活な少年だったが、ガリア王としてはどのような王になったのか、当然ラウルには知る由もない。


「おぬしがガリア王を知らぬとて、そも国内貴族に突き上げられれば、ガリア王とて無碍にはできまい。それこそ、今のロタリンギア王のように強権を持てぬ国だ。国内の有力貴族…とりわけ保守的なカンパニア公やアンデシア公に要請されれば、そうさな、アストゥリアス王国くらいなら滅ぼすやもしれんぞ?」


カレドニアという北端の公でありながら、スカサハは極めて精緻な分析をする。さすが、ヒベルニアから単身乗り込んでアルバやカレドニアを統一した人物だ。


「私も同意しますクイーン。ガリアのことです、占領したアストゥリアス王国沿岸でのブリタニア船の寄港を拒否するでしょう。ブリタニアからルシタニア王国への航路が立ち行かなくなってしまいます」


アグラヴェインも同じ見立てのようで、ブリタニアにとってはルシタニア王国との交易が成り立たなくなることが懸念された。確かに、今の技術では、ロンドンからリスボンまでの距離をノンストップで進むことはできない。
アストゥリアスの港に停泊できなくなれば、輸入に依存するブリタニアはさらに苦しい立場になる。


ラウルは、ルシタニア商人とブリタニア商人がアンドウェルピアで取引を行う数量が減るとこちらも困るため、最初から少し譲歩して提案することにした。


「それなら、当面はスヘルトラント辺境伯領のベルギスで積み替えていくといい。積み替え関税は撤廃してやる。ハラレムでの中長距離船舶も増産するか」

「そうだね、短期的にはランスロット卿がいるベルギス港でロタリンギア船に積み替えるしかないだろう。できれば、ハラレム産の船舶の割合を増やして、停泊なしでルツィオまで到達できるようにしなければ」


アーサーも応じて、とりあえず当面の対策は決まる。ちなみに、ルツィオはリスボンの旧称だ。
続いて、アグラヴェインはゲルマニアに話を移す。


「次にゲルマニア王国とオスティア地域についてです。ゲルマニア王ルートヴィッヒ6世は、いよいよ東方拡大に乗り出しました。4年前にダルマティア王国を併合したのと同じように、継承問題を使ってパンノニア王国とダキア王国と併合しようとしています。ただ、パンノニア王国もダキア王国も、ゲルマニアの併合には比較的好意的な向きもあるようです」


ゲルマニアより東の東欧を指すオスティア。東ラバルム帝国の領土だったが、東ラバルム帝国の衰退に伴い次々と独立していった。
その際、ラウルの世界ではスロベニア、クロアチア、ボスニア・ヘルツェゴヴィナにあたるダルマティアは1272年に王家が断絶してゲルマニアに併合された。

そして今、ゲルマニアはパンノニア王国とダキア王国を目指している。
パンノニア王国は、ハンガリー、スロバキア、ウクライナ南西部ザカルパッチャ州、ルーマニアのトランシルヴァニア地方、そしてセルビアのドナウ川以北から成る国だ。この世界ではドナウ川をイステル川と呼ぶが、このイステル川が形成する広大な平原を中心に栄える国である。
その南、ルーマニア南部ワラキア地方とセルビア中部にあたる地域にはダキア王国がある。

このほか、セルビア南部からコソボにかけては高モエシア王国、モンテネグロとアルバニアにはイリュリア王国があり、この2か国より南にはグラエキアが広がる。


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