chapter. 6−2
午後、ついにメティスに王が到着した。まず最初にやってきたのはガリア王シャルルとその一行であり、多くの見物の市民の歓声を受けながら大通りをゆっくりとパレードのようにやってきた。
シャルルはもちろんこと、その配下である「十二勇士」と呼ばれる者たちのヒスパニア戦役での活躍の噂はロタリンギアにも当然届いており、ウェスティア世界の中心であるメティスの市民ももちろん知っていた。
指揮したシャルルについた敬称はシャルルマーニュ。
ブリタニアの円卓の騎士と並び、人々の憧れの的であり、芸術作品のモチーフにもなっている。
一行は正門を抜けて宮殿に入り広大なメティス宮殿の左翼棟に通される。護衛や付き人、ルテティアからの旅路をサポートする各種業務の担当者たちなど総勢500名あまりが宿泊し、さらに関係者や予備護衛兵など1000名あまりは市内で宿泊する。
続いてやってきたのは、ゲルマニア王の王太子2名を中心とする一行で、こちらは右翼棟に通される。シャルルほどの歓待はなかったようだが、連れは宮殿に500名、市内に1200名、そして市街の仮駐屯地にさらに500名という布陣だ。
メティスはガリアの王都ルテティアとゲルマニアの王都ドームヒューゲルとを結ぶ大街道の真ん中に位置しているため、本来ここまでの陣容で来る必要はない。
もしも戦闘になってもいいように、という予防策だと透けて見えていた。
それに内心で舌打ちをつきつつ、入城から2時間後、各王たちの準備も終えたとの報告を受けた。
これから歓迎の晩餐会を開き、明日から会談が始まることになっている。
普段であれば、国内貴族たちも一堂に会した盛大な晩餐会になるところだが、ゲルマニアからやってきた王太子二人は全権代表とはいえ王ではないとして、その規模での晩餐会を事前に固辞していた。
そのため、ラウルは王だけの晩餐会として、大広間ではなく鏡の間と呼ばれる25メートルプールほどの広さの部屋を用意した。
カストロとポルクスに先導され、ひときわ豪華な廊下を歩く。そして、深呼吸をして、二人が開いた大扉から中に入った。
「ロタリンギア王のご来室です」
ポルクスの凛とした声が告げると、一斉に使用人たちが頭を下げる。
正面には丸いテーブルが鎮座しており、3人がすでに着席している。カストロとポルクスは扉のところで控えて立ち、恐らく部屋には透明化したロビンも控えているだろう。
使用人が引いた椅子に腰を下ろすと、丸テーブルを囲む者たちに口を開く。
「遠路はるばるよく来てくれた。全員、会うのは10年ほど前、この宮殿での舞踏会以来だろう」
「あぁ、実に大きくなったな、ラウル…失礼、ラウル王」
まず答えたのは、ゲルマニア王ルートヴィッヒ6世の長男であり、次期ゲルマニア王であるジークフリート・フォン・アウストラージエン。現在は王都ドームヒューゲルを擁するフランコニア大公であり、ラウルの9歳上の25歳である。
「当方が貴殿と初めて出会ったときとは見違えるようだ」
続けてそう言ったのは、ジークフリートの弟であり、現在23歳のシグルド・フォン・アウストラージエン、眼鏡をした凛々しい顔つきの男だ。
ジークフリート、シグルドともに背が高く、ジークフリートに至ってはラウルより20センチ近く背が高い。
「ジークフリートは先日パンノニアの軍勢を一人で放逐したと聞いている。アクィンクムも無血開城したとか。シグルドも、最近イーセンラントの女王と婚姻したそうだな、祝意を述べよう」
二人とも武勇で知られ、ジークフリートは東方のパンノニアを一人で平定し、エリザベートと協定を結んでこれを併合。ダキアのヴラド王とも協議の上併合を実現し、現在、ゲルマニアは両国を完全に併合し終えた。
エリザベートはパンノニア公、ヴラドはダキア公となっている。
シグルドも北方のノルディアとの海戦で勝利し名を挙げており、その際、アイスランドにあたるイーセンラント王国の女王と同盟した。
イーセンラント女王ブリュンヒルデとシグルドは、次第に恋に落ち、婚姻に至ったとのことだ。
その結果、イーセンラント島とその領土であるフェロイヤール諸島、ヒャルトラント諸島もゲルマニアの支配下に置かれることになった。フェロイヤールはフェロー諸島、ヒャルトラントはシェトランド諸島のことであり、どちらもイギリスと北欧の間に浮かぶ島々である。
こうしてゲルマニアの影響範囲はブリタニアとノルディアそれぞれを圧迫する形になっており、両国との緊張が高まっていた。
続けてラウルは、左側に座るシャルルに視線を移した。
目が合った途端、射貫くような紅の瞳がラウルを見据える。たじろぎそうになるのを堪え、ラウルは挨拶の言葉を口にした。
「ガリア王シャルル、遅くなったが即位おめでとう。先日もヒスパニア遠征で大変な武功を挙げたと城下もその話題でもちきりだ」
「…こちらこそ、即位の祝賀に馳せ参じることができず申し訳ない、ロタリンギア王。歓待いただき感謝する」
こっそり、ラウルはシャルルの変わりように驚いた。
年齢はラウルより2つ上の18歳であり、昨年即位したばかりの若い王というところはラウルと同じだ。しかし、長く垂らした側頭部の髪や紅の瞳は、ラウルの知るシャルルとは違う。何より、泰然とした貫禄がまったく異なっていた。
昔、この宮殿で出会ったシャルルは、より快活でよく笑う悪ガキめいた少年だったし、髪色こそ同じだが、全体的にもう少し短かった。
瞳も、ラウルより濃い青で、ラウルが湖の青ならシャルルは空の青だったはずだ。
魔法の影響で外見に変化が生じること自体はあるため、ひとまず過去の姿との違いについては横に置いておく。
とりあえず今日は、本題に触れるような話はしないし、晩餐会という場でそれはマナー違反である。意外と話しやすいジークフリートとシグルドとの会話を主に、たまにシャルルも混ざる形で、ラウルはあまり味のしない食事を飲み込んだ。