chapter. 6−3


晩餐会のあと。

シャルルは使用人に案内され、広大な宮殿を中央棟から左翼棟に移動し、ガリア王に宛てがわれた貴賓室に入った。
ロタリンギアの使用人が去って、代わりにガリアから連れてきた使用人たちが正装の脱衣を手伝い、それも終えてラフな格好になったところで、さらに貴賓室の奥、王の私室になっている部屋に入った。

そこには、私室のはずなのに居座っている勇士たち。全員を連れてくるわけにはいかなかったため、一部だけであるにも関わらず、フルーツやワインを楽しむ様は軽い宴会のようだった。


「あっ、王様じゃーん!どうだった?愛しのロタリンギア王は!」


その一人、アストルフォは軽やかにソファーを飛び出てこちらに駆け寄る。女性ものの服を着ているが、立派な男性である。男女の差があまりない貴族の服と違い、騎士の場合は目立つ。

とはいえ今はそんなことはどうでもいい。シャルルはやや乱暴につけていたウィッグを外すと、すっと息を吸い込む。


「すっっっげえええ可愛かった!!天使か!?!?」

「あっはっは、うち王そういうところあるよなー」


そして、たまらず叫んだシャルルに、ローランとアストルフォはどっと笑った。
さすがに外国の王宮であるため正装をしているローランだが、この男は困ったことにすぐ服を脱ぎ捨てる悪癖があるのだ。

一方、まじめなブラダマンテは二人をたしなめる。


「ちょっとローラン、あーちゃん、王の恋路を笑うなんてさすがに無礼ですよ!」

「相変わらず真面目だなぁ〜!」


アストルフォはケラケラと笑っている。
他国の王からすればあり得ない光景だろうが、シャルルと勇士たちの関係とは、このような仲間という方がずっと正しいような、そんな近しい間柄だった。

シャルルはどかりとソファーに座ると、膝に肘をついて目元を手で覆い、晩餐会で見た姿を思い出す。


「一秒でも記憶してたくてめっちゃ見ちゃった…バレてたかな」

「え、あの王様モードで?眼圧やばくない?」


隣に座ったアストルフォの言葉に、「やっぱりぃ…?」と情けない声が出る。
我ながら格好良くないとは理解しているのだが、とりあえずラウルに格好いい自分を見せられればいいのだ。

そう、シャルルは普段からこんな子供っぽい言動をしているため、とてもじゃないがガリア王なんて務まる人物ではなかった。
それでもガリア王になるしかなく、シャルルは仕方なく、王様モードと呼ばれる威厳ある姿を作っているのである。

意外とやればできるもので、シャルルが自分の髪で作らせたウィッグをつけて泰然としていれば、臣下たちも貴族たちも王の貫禄を感じてくれている。
瞳の色も、威圧感を出すために光学魔法で赤くしている。

なお、シャルルの魔法はいわゆる「元素魔法」と呼ばれるもので、様々なものに元素魔法を付与することができる。広範なものであり、剣に炎を纏わせることもできれば、凍らせることもできるのだ。
同じ要領で、光の屈折などを調整して、瞳の色をもとの青から赤に変えている。


「でも意外だよな〜、本当なら廃位されたんだから恨み持ってもおかしくないってのに。我らが王は気にしてないどころか結果オーライときた」

「俺は王様業、向いてねぇからなぁ〜。リウガウ公を継承しても同じだったと思うぜ。それに、地方の公位よかガリア王の方がラウルに近づけるだろ?」

「しかし我が王、今回の訪問の目的は…」


ブラダマンテは一応、ロタリンギア国内であることもあってそれ以上は言わなかったが、全員理解している。
今回、ガリアとゲルマニアは、ロタリンギアを分割して併合することを提案する予定なのだ。

要は、ロタリンギア王権を分割してガリアとゲルマニア双方の王権に西ラバルム帝国の皇統を付与し、新ラバルム帝国なるエトルリア半島の新興国家に対抗するということだ。
しかし、シャルルはその点についてはそこまで気にしていない。


「ぶっちゃけ、なるようになれ、って思ってんだよな。つか、むしろ俺がラウルと結婚した方が話早くねぇ?王権の正当性にしても国土の拡張にしても」

「いいじゃーん!結婚式はメティス?ルテティア?せっかくなら盛大にパーッと祝っちゃおう!」

「あーちゃん、まだ決まってないんだから…もう…」


正当性があろうとなかろうと、ガリアはすでに新ラバルム帝国とロンバルディア地方で国境を接している。会戦すれば正当性など関係なく、戦うのみだ。

それならば、ロタリンギアのことは純粋に、自分がラウルと結婚すれば万事うまくいくと思っている。


「問題はプロポーズだよなぁ〜。王様モードで『我が伴侶となれ』ってやるか、素の自分で行った方がいいか…」

「王までそんな、まずはラウル王の想いをですね…」


真面目なブラダマンテはプリプリと愛の重要性を説くが、すでにシャルルの頭の中はどうやって口説き落とすかでいっぱいになっている。

まさかこんな頓珍漢な空間がメティス宮殿にあるとは、ラウルも思わないことだろう。


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