chapter. 6−4
翌日、いよいよ三王会談が始まった。
議場となっている鏡の間にて、正方形の大きな大理石のテーブルに各国の王が着座する。入退場する大扉に向いた面を開ける形で三方向に座り、空いた大扉側の向かいにラウルが、ラウルから見て右にシグルドが、左にシャルルが座る。
なお、ジークフリートとシグルドの二人がゲルマニアの全権大使ではあるが、交渉の主体はシグルドが担うらしく、ジークフリートはこの場にはいない。確かに、ジークフリートはこのレベルの厳しい交渉には向いていない。冷徹になれるシグルドの方が適任だろう。
会談の始まりに際して、カストロが低い声で開始の号令をかける。
「これより、ロタリンギア王、上ロタリンギア公、フリジア公、レッツェ=ロンカストル伯、メティス伯、トレヴェリス伯、アルザティア伯、東フリジア辺境伯、西フリジア辺境伯、レーヌスラント辺境伯、ヴェルーヴェ伯たるラウル・ラティウム=トレヴェリスと…」
参加している者の地位をすべて述べることで参加者の紹介とするため、この冒頭の時間だけで数分が経つ。
「ガリア王、ルテティア伯、フランドリア伯、アンビアニス伯、ロートマーニュ伯、カーイン伯、トリカス伯、ディヴィオ伯、アヴァルム伯たるシャルル・ド・ネストリー=アリスタル、そしてスウァビア大公シグルド・フォン・アウストラージエンがここに集い、西ラバルム帝冠のもと、神聖なる談義に臨むことを宣言する」
「…それじゃあ、始めようか」
カストロの凛々しい声が終わったところで、ラウルが切り出した。
途端に緊張感が場に満ちる。カストロとポルクスは昨晩と同じく大扉で控え、ロビンも姿を隠して潜んでいる。そのほか、メティス宮殿の使用人を束ねる総監のみが三人にワインを注ぐことになっているだけで、通常の使用人などもいない。
「ガリア王、スウァビア大公よ、貴殿らは目下、新ラバルム帝国を不遜にも名乗るエトルリアの国家に対してどのように考えている?」
ラウルが最初に尋ねると、最初にシャルルが答えた。やはり、大公と王では王の方が公式には先に話し始めるものだ。
「我がガリアはすでに新ラバルム帝国…いや、ここではノヴァ=パトリア王国と呼ぶか。この国とすでに国境を接している。かの王は、すでにエトルリア軍をより最新式の軍隊に仕立て上げている。さすが、剣帝と呼ばれるだけある」
新ラバルム帝国と呼ぶということは、その正当性を認めることになる。シャルルは冷静に、その帝冠の下にある王位の名前で呼ぶことにしていた。
エトルリア半島を占めるノヴァ=パトリア王国、そして名前が変わっていないトリナクリア王国の2王国が新ラバルム帝国を構成している。ノヴァ=パトリアは、ラテン語で「新しい故郷」を意味する国名だ。
シグルドはシャルルの言葉から、ルキウスへの接し方をすでに決めているのだと理解した。
「つまりガリア王、あなたは新ラバルム帝国の皇帝に正当性を認めないと決めておられるのだな」
「その通りだ。確かに東ラバルム帝国の皇帝としては、その血筋は正当なものだ。しかし、ここはウェスティア。西ラバルム帝国の末裔たる我らの土地だ。存在を許すわけにはいかない。すでに、エトルリア半島への物流は停止している」
「ふむ、まぁ妥当だな。当方としても、ルキウス王の帝位を認めることはあり得ないと考える。とはいえ、実力でもって正当化する可能性もあるだろう。防衛に抜かりはないのだな」
「…いや。ロンバルディア公領とサウォギア公領は五分五分だ。地理上、ガリア本土とは山脈で隔てられている。送り込める物量はエトルリアとそう大差ないだろう」
このあたりは、すでに事前に誰もが知っていたことだ。形式的なすり合わせである。
そして、このあとの話の流れこそが、恐らくゲルマニアとガリアの本心に迫ることになる。