chapter. 6−5
「当方としては…いや、我が父ルートヴィッヒ王の意思としては、新ラバルム帝国の正当性に異を唱え、軍勢を率いてロンバルディアで対峙するためには、やはり王権の強化と、ガリア・ゲルマニアの強力な連帯が不可欠だと考えている」
シグルドが切り出すと、シャルルも鷹揚に頷く。
「その通りだな。順当に考えれば、俺が下ロタリンギア公を、そちらが上ロタリンギア公を兼ねてはいかがか」
「…随分と正面から喧嘩売ってくれるじゃねぇか」
平然と分割を提案した二人に対して、ラウルは口元をひくつかせて、感情を抑えて述べた。カストロは今にも殺しそうな目でシグルドとシャルルを見ている。
それに対して、シグルドはまったく意に介さず答える。
「いまや形骸化したロタリンギアの宗主国王権をなくし、ガリアとゲルマニアで新ラバルム帝国を放逐する。合理的だと考えるが」
「参考までに聞いてやるが、ゲルマニアとしては、俺の処遇をどうするつもりだ?廃位でもするのか?」
「まさか。ラティウム=トレヴェリス家を廃位などできるはずがないだろう。婚姻という形が妥当だが、あいにく、当方には最愛の妻ブリュンヒルデがいるし、兄ジークフリートにはクリームヒルトという愛妻がいる。さすがに三男のジークと婚姻、というわけにはいかないだろう」
「ならば話は簡単だ。俺がラウルと結婚すれば安泰だろう。大公ではなく王との結婚であれば釣り合うからな」
すると、シャルルがとんでもないことを提案した。ロタリンギアを分割し、ついでにラウルをガリア王室で嫁ぎ入れるというのだ。
つい、ラウルはポカンとしてシャルルを見てしまった。凛とした佇まいの男は嘘でも冗談でもなくそう言っている。
「…あぁ、子供の王権と魔法を強化するためか。国土も増えて王権も強化できて、って考えれば一石二鳥だな、ガリアにとっては」
「いや、国土も王権も血筋も不要だが。単純に俺があんたとの婚姻を望んでいる。新ラバルム帝国のことはついでだ」
「…、…?え、は…??」
何を言っているのか理解できず、一瞬頭がショートする。領土の拡張や王家の血筋などはどうでもよく、単にラウルと結婚したいと言ったのか、この男は。
「おお、そうか。ガリア王も愛の力を知る男であったか。うん、それはとても良いことだ。我が愛と当方の絆はゲルマニアを強くした。愛こそすべてだとも」
うんうんと頷くシグルドに、シャルルも「その通りだな」と返している。
扉の方ではポルクスが必死でカストロを押さえつけており、恐らくロビンも透明化したままカストロをなんとか落ち着かせようとしている。
頭が痛くなってきたラウルは、つい額に手をついて頭を抱える。
「…、え、お前、プロポーズしに来たのか」
「そうとも言うな」
「……そんな接点なかっただろ」
いったいなぜこんなことを言い出したのか皆目見当がつかず、新ラバルム帝国のことなど放り出して聞いてしまう。それどころではないのだ。
「幼少の頃、俺とお前はメティスの宮廷で出会っている。そのとき…要は、一目惚れした。孤独に国を立て直そうとする姿に、それはより一層強くなった。ぶっちゃけめちゃくちゃ結婚したいしこのままルテティアに連れて帰りたい」
「…え、」
「おっと失礼。なんにせよ、今のロタリンギアはブリタニアと同盟している。無理にことを運べばブリタニアと新ラバルム帝国に挟撃される形になるからな、ロタリンギアの分割や結婚の話はなるべく穏便に済ませたい」
「そうだな、愛は無理強いするものではない。分割についても、下手にブリタニアを刺激すれば我が愛の島々を巡る戦いが起こることになる。ウェスティア全体が戦いの場となってしまうだろう。それは当方としても避けたい」
一瞬、昔のシャルルのような雰囲気が顔を出したが、咳払いをして元の凛々しい態度に戻る。シグルドはそもそもそこを気にしていなかった。
国土の分割は想定済みだったため、特に動揺などはない。このまま、後日改めて回答する形で収まるだろう。
それよりも、突然シャルルに結婚を迫られたことの方がよっぽど重大な出来事だった。