chapter. 6−6


会談はその後、新ラバルム帝国が軍事行動を起こした場合の対処方法の確認や、経済、金融などの話まで行い、丸一日を費やした。

夕食はそれぞれとなり、シャルルは左翼棟、シグルドとジークフリートは右翼棟のホールで食事をすることになっている。もちろんラウルは後宮だ。

会談場を離れ、双子の先導で後宮区画に入ったところで、堰を切ったようにカストロが怒りを露わにした。


「なんなのだあの男は!!」

「兄様…ええ、不遜にもガリア王の分際でラウル様に婚姻を迫るなど、あってはならないことです」


先ほどは王の前であるということで止めていたポルクスだったが、さすがにポルクスも我慢ならなかったらしく、カストロを諌めることはない。
そこに、ロビンも魔法を解いて姿を現した。


「ったく、にしてもカストロが今にもガリア王を殺しに行きそうだったがもんだから、慌てたぜこっちは」

「堪えてやっただろう」

「堪えきれてねぇっしょあれは…殺気に気づかない奴らじゃない、シャルル王もシグルド大公もあえて見逃してた」

「チッ」


そこは理解しているようで、明白に見逃されたことにカストロは舌打ちをする。
ラウルの隣を歩くロビンは、そこで面白そうにこちらを見下ろす。


「それで?うちの陛下的には、あの男はどうなんです?」

「どうって…別になんとも。驚きはしたけどな。結婚なんて考えたことなかったし」

「?でも王は普通、世継ぎを残すために結婚するもんでしょう?考えてない王なんているんですかい」


ロビンに言われたことはその通りで、またやってしまったと内心げんなりとした。

当然、転生する前の世界においては、結婚なんてするつもりはなかったし、ずっと孤独に生きていくつもりだった。家族がいなかったラウルにとっては、それが前提だったのだ。
こうしたときに、元の世界で培った価値観とのギャップが露呈してしまい、周りのロビンや双子たちを困惑させてしまう。


「まぁ…なんつか、いろいろあんだよ」


ラウルは適当にぼかして答える。はぐらかしてすらいない、ただ回答を拒絶しただけの形になってしまっている。
こっそりため息をつくと、カストロはなぜかドヤ顔になった。


「フン、そも、ラウルに釣り合う者などいるものか。生まれの高貴さだけではない、頭脳でも人格でも、この男の隣に相応しい者など。ブリタニア王は血筋が足らん。ガリア王には血筋はあるが頭脳も人格も足らん」

「なんでしれっと男ばっかなんだよ」


男性同士の結婚もあり得る世界線とはいえ、それでも普通は男女であることが多い。
なぜか男の王だけを挙げたカストロに文句をかねてじとりと見上げると、カストロはぐっと言葉に詰まる。


「そ、れは…特に他意はない、が…」

「へぇ〜?本当ですかい?ラウルのこと、そういう意味で見てるからなんじゃねぇの〜?」

「っ、」

「やめなさいロビンフッド、兄様は周辺国に優れた家柄で年頃の子女がいないことを承知で、ガリア王やブリタニア王の名を出したのです。そうですよね兄様」

「あ、あぁ、そうとも妹よ」


なぜか動揺するカストロ、変わらずニヤニヤするロビン。さすがに会話の意味が分からないほど純情なつもりはないが、なぜラウルに対してそんな話になるのだろうと疑問にはなる。


「俺をそういう目で見るとか、だいぶ奇特な感性してるだろそれ」


呆れてそう言うと、突然、三人揃って勢いよくラウルを振り返った。その勢いに思わずびくりと肩が跳ねる。


「な、なんだよ…」

「…なんつか、ラウルって頭はいいのに、そういうところはポンコツですよねぇ」

「は!?」

「さすがの私もそれは否定できかねます、ラウル様」

「まったくだ。知性、品性、教養、魔法、権力、血筋、そして人格に外見まですべて一級品だというのに何を言っているのだ」


突如として三対一の構図になり、ラウルは劣勢にたじろぐ。確かに、家柄はウェスティアトップクラスであるし、魔法や権力についてはそうだろう。知識も、現代を生きた史学科の人間だったため、この世界の者からすれば豊富に見えているはず。
しかしそれ以外の部分はてんで分からない。外見だって、銀髪に碧眼という組み合わせは珍しいがゼロでもない。


「よ、よく分からないけど…じゃああれか、カストロが結婚してくれんのか」

「なっ、」


その途端、カストロはぼっと音がしたのではというほど急に顔を赤らめた。ロビンは相変わらずニヤァと楽しそうにしており、ポルクスに至っては「まぁ」と喜色が滲んだ声で頬を手で覆った。
カストロは口元に手を当てて視線を逸らす。


「ま、まぁ…お前が望むなら、やぶさかではないが…」

「はは、カストロって優しいよな」

「…お前な」


またもカストロは呆れたようにしつつ、乱雑にラウルの頭を撫でまわした。誰もいない後宮だからこそできるじゃれあいだ。
こんな些細な時間があるのなら、別に結婚などしなくてもいいか、なんて思ってしまうくらいには、ラウルはこの場所が大切だった。


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