chapter. 6−9


「え、っと…」

「昼間も言ったよな?なのに、そんな誘うような格好で来るとかさ、何されても文句言えねえだろ」

「文句言う前に逃げられるからそこは別に…」

「あー…くっそ、やっぱロタリンギア王ってつえー」


一瞬、その瞳に灯った劣情の炎に冷や汗をかいた。確かに、シャルルの言うことはごもっともだ。咄嗟に平然と答えたため、シャルルはまた先ほどまでの態度に戻り手も離れたが、内心こちらはバクバクとしている。

落ち着くためにもワインを一口飲んでから、ラウルはもう一度、昼間と同じことを尋ねた。


「…なぁ、なんで俺にそんな感情寄せるんだ?一目惚れとか言ってたけど…俺はお前の家から一方的に公位を奪ったんだぞ」


そう、幼い頃に会ったきりのラウルは、最近になってレッツェ勅令によってシャルルの生家ハリスタル家からリウガウ公位を剝奪し、リウガウ公領を解体してルーティカ伯に再編してしまった。
恨まれていてもおかしくないはずなのだ。

しかしシャルルはあっけらかんと答える。


「そりゃ、ガリア王に即位する可能性があった俺に国内の公位継承権を持たせ続けるのは危険すぎるだろ。俺だってお前の立場ならそうする。だから気にしてないぜ。むしろ、ガリア王だからこそ、こうやって対等に話せるだけだしな」

「それは、そうかもしれないけど…」

「それにさ。レッツェ勅令だって、ロタリンギアを強くするためにラウルが頑張ってる成果だろ。おとなしく従った家にはきちんと見返りも渡してるし。国内貴族を敵に回すのを覚悟して挑むの、すげーしんどいだろうに、それでも断行したんだ。格好いいと思うぜ!」


爽やかな笑みで答えたシャルルは本気でそう思っているようだ。
カストロやポルクス、ロビン、モレー、コンスタンティノスなどは、戦争を防ぐというラウルの目的を知っているからこそ、勅令の実行に協力的だったし、肯定的だった。
一方、シャルルはそんな事情も知らないのに、ラウルを褒めた。それは、彼が王だからこそ分かることなのだろう。


「ま、惚れた目線ってのは大いにあるかもだけどなー。覚えてるか?6年前の新年祭で行われた舞踏会で、当時のフリジア辺境伯が、コロニア伯に馬鹿にされたとき」

「あー…そんなこともあったような…?」


ラウルが10歳のときに開かれた舞踏会でのことだ。当時12歳だったシャルルと初めて会った場でもあったはずである。

当時、フリジアは公位がなく、すべての伯位が王権に直属していた。そのような王室が直属で有する領域のことを「王権直属領」とロタリンギアでは呼んでいる。

そんな王権直属領の一部だったフリジア辺境伯、現在は東と西に分けられている広大な地域は未開の地であり、その名の通り辺境だった。そのため、国内の貴族たち、とりわけ豊かな地域の貴族たちからは馬鹿にされていた。

当時のフリジア辺境伯は常識人で、舞踏会のために財政を窮乏させてまで衣服を揃えるくらいならと、恥を承知で質素な正装でメティスにやってきていた。
それを見て、コロニア伯を中心とするレーヌス川沿いの諸侯たちは嘲笑い、思い切り見下していた。確か、ハリスタル家も加わっていた。


「あのときさ、ラウル、コロニア伯に正面から異を唱えただろ。『たとえ質素な正装であっても、その心には民のための統治者であろうとする立派な装いを纏っている。品性に欠けた言動をする貴殿らの心の装いは、なんとみすぼらしいことか』ってな。すげー痺れたぜ、たった10歳でそんな威厳あること言えるなんて」


うっすらと記憶が甦る。10歳と言えど中身は立派な大人だったのだから、自分にとってはなんでもない言動だったが、周りからすれば確かに目を引くものだっただろう。


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