chapter. 6−11
「ブリタニアとの同盟も、ガリアとゲルマニアを牽制するためだ。ロタリンギアに攻め込めばブリタニアも巻き込むぞ、ていうな。国内貴族への牽制でもある。ブリタニアとの連合兵が攻めてくるとなればビビッて王室に歯向かわないだろ」
「でも、そうやって戦争を防ぐとしても、ラウル個人としては目的はねぇの?ただ戦争が防げさえすれば王位に拘らない、なんて、無私の精神にも程があるっていうか…」
「いろんなヤツに聞かれるけど、そんな大層な話じゃない。単に嫌なだけなんだ、自分のせいで血が流れるなんてのは。一人でも多くの人たちに、笑っていて欲しい。楽しく生きて欲しい。ただ理由なく生きられる、その命を無条件に尊重される、そんな国であって欲しい。そう思ったときに、それができるのは王という立場だけなんだ」
ラウルの話を聞いたシャルルは、ずっと握っていたグラスをテーブルに戻す。そして、姿勢をずらして正面からラウルを見据えた。
「…なぁ、変なことはしねぇって誓うからさ。抱きしめてもいいか?」
「…?別にいいけど…」
いったい何を聞いているのか、と思いつつとりあえず頷くと、シャルルはゆっくりとラウルを正面から抱きしめた。
お互いソファーに並んで座るため、腰をひねって横を向いてはいるが、シャルルはラウルの姿勢がつらくないように、こちらに身を乗り出すようにしてラウルを抱きしめていた。
見た目よりずっと逞しい体と太い腕に抱き込まれ、厚い肩に顔を埋める形になる。
「…ごめんな、ちょっと、好きが溢れた」
「なんだそれ」
耳元で言ったシャルルにおかしくなって、ラウルは小さく笑う。それに、シャルルはさらに抱きしめる力を強くして、ラウルの後頭部に手を回した。
「…ラウルは本当に、優しいんだな。顔も名前も知らない人間に思いを馳せることができるくらい。民のための国か。そっか、俺なんかと全然、見てる視点が違ったんだな」
「そうか…?」
「そうだよ。これだけ優しいのに、国内での厳しい改革を次々と行って、敵を作って、それでもずっと頑張り続けてる。それなのに、俺、無責任に守るためなんて言って結婚を申し込むとか…くっそだせぇよな。カッコ悪ィ、本当に」
沈んだ声で本当に後悔したように言うものだから、ラウルはなんと返そうか迷う。
少し間をおいてから、ラウルはシャルルの背中をそっと撫でた。
「…だとしても。ロタリンギア王としての俺じゃなくて、単純に俺個人を見て結婚しよう、なんて言ってくれたのは、まぁ、素直に嬉しかったよ。同じ王だから共感してもらえることも」
「……じゃあ結婚してくれるか?」
「それとこれとは別」
すげなく返せば、シャルルはようやく気分を持ち直したのか、くすりと笑って体を離した。
「…ありがとな、話してくれて。ラウルの考え方はよくわかった。さすがに俺も、はいそうですか、なんて言えない立場だけど…それでも、俺もラウルの目指すものは賛成だ。王たるもの、民の命を守ってこそだもんな」
「いいよ、俺は俺で、完膚なきまでに周辺国が戦争を企てないような国際社会を形成してやるから」
「はは、すげーや、本当に格好いいぜ!俺ももっと格好いい王様になるからさ、そうなったら結婚のこと、前向きに考えてくれたら嬉しい」
「…分かった」
決して、ロタリンギア王であるラウルとガリア王であるシャルルが同じ立場になれたわけではない。まだまだラウルは、自らの力でロタリンギアを守るための努力を惜しんでいられないのだ。
それでも、こうやってシャルルが認めてくれたことは純粋に嬉しかった。結婚はさすがにちょっと分からないけれど、ラウルにとってもその選択肢は、悪いものには思えなかった。