chapter. 7−1
予想外の出来事はあったものの、三王会談は無事に終了した。
シャルルが実は「王様モード」なる変装をして威厳を演出していることを知ったラウルではあったが、知っていてもなお、シャルルの纏う厳かな雰囲気は本物で、演技というより別人格のようだとすら思ったものだ。
シャルルとシグルド、ジークフリートはそれぞれ王都に帰還していき、メティスは一時の喧騒を忘れて日常に戻る。
しかし会談終了から数日、いきなり新ラバルム帝国が仕掛けてきた。
「…え、ロンバルディアとサウォギアが?」
「あぁ。王都直属の諜報部隊からの情報だ」
レッツェ城に戻り、執務室で仕事に励んでいたところ、カストロが訪ねてきた。
そして、大きな動きがあったときに使われる王室諜報部隊からの情報を報告する。
なんと、ロタリンギアからガリアに奪われた土地、ロンバルディア公国とサウォギア公国が、ガリアからの分離と新ラバルム帝国への併合を宣言したのである。
新ラバルム帝国が侵攻したのではなく、両公国が自らガリアではなく新ラバルム帝国を選んだということだ。
「なるほどな、どちらも最近、ガリアから宛てがわれた別の家が公位に叙任されていた。もともとロタリンギア時代から統治していた古い家が、同じく古きラバルムの血筋の下につこうというのは自然な話だ」
「ガリアが派遣した新しい公たちはどちらも家族ごと追放された。幸い、両家とも無事にジェヌア港から脱出し、マッシリア港に到着したそうだ」
もともと、ロタリンギア領だった頃からロンバルディア公とサウォギア公は我が強く、古代ラバルム帝国時代から連綿と続く名家中の名家だった。それこそ、ラウルの先祖と婚姻した者も多い。
しかし、ガリア王マルテルによって強引にガリアに併合されてからは、ガリア国内からマルテルが派遣した家が公位につき、元の家は2つとも公位を剝奪されていた。
今回、歴史がある分魔法も強かった両家は自ら反旗を翻し、ロンバルディアでは首都ティキヌムで、サウォギアでは首都ジェヌアで反乱が発生。ガリアからやってきた新しい公たちはジェヌアの港から命からがら逃げだし、元の両家は再び公位についた。
そして、そのうえでガリア王ではなく新ラバルム皇帝のもとに封じられることを宣言したのだ。
なお、ティキヌムはイタリアのパビア、ジェヌアはジェノヴァのことだ。
「ルキウスはなんて?」
「新ラバルム帝国は当然、両国の封建を認めた。帝冠に直属する形で併合され、新ラバルム帝国は国土を1.5倍にしただけでなく、ウェスティアで最も豊かな土地を手に入れた」
「ま、当然か。国力は増えるが…さすがに自然地形に抗うには、軍備が脆弱すぎる。山越えはできないだろうな」
新ラバルム帝国は、これによってラウルの知る世界で言えばイタリア共和国の領土とほぼ一致している。現代イタリアよりと違い、フランス領となっているニースやコルシカ島にあたる地域も新ラバルム帝国の領土となっている。
だが、これ以上の拡大は容易なことではない。
イタリアで考えると、イタリアの国土の北部というのは険しい山岳に三方を囲まれた平野になっている。
フランス国境からスイス国境西部にかけては「西アルプス山脈」、スイス国境東部からオーストリア国境にかけては「東アルプス山脈」、そしてスロベニアとの国境は「ディナル・アルプス山脈」という、アルプス山脈とそれに連なる山塊に囲まれているのである。
この世界は地形が元の世界と完全に一致しているため、新ラバルム帝国も同じくこれ以上はアルム山脈を超える必要が出てくる。
「ガリアは今回の件に関して、武力による鎮圧はしないようだ。西アルム山脈に接した都市クラーロ、ディニア、カヌアを要塞化しつつあるものの、山越えによる侵攻をする気配はない。あのシャルル王とかいう男、その程度の理性はあるようだな」
「…そっか。シャルルは武力で鎮圧しないのか…じゃあ、併合は認めないが無理やり言うことも聞かせない、ってとこで落ち着かせるんだな」
脳裏にシャルルが抱きしめてきた夜が浮かぶ。ラウルの目指す世界を、手放しで支持することはできない立場だと言いながらも、恐らく元ロタリンギア領であるロンバルディアとサウォギアで戦争することを、シャルルは避けてくれた。
こんなに早く、シャルルがラウルへの態度を示してくれるとは思わなかった。
最も豊かな土地である北部エトルリア地域をみすみす手放したのだ、特に先代王マルテルを信奉する保守的な貴族たちからの反発は大きいだろう。その面倒な調整をしてでも、シャルルは戦争ではない手段を取ってくれたのである。
それならば、ラウルも応える必要がある。前々から考えていた外交政策を、実行に移す時だ。