chapter. 7−3


「というわけなんだ」

「いや訳分かんぬぇーんすけど!?」


いつも通り双子を従え、ラウルは転移魔法によってアヴァール国の首都トミスにやってきた。
ラウルの世界では、ルーマニア最大の港湾都市コンスタンツァにあたる街であり、蛇行するドナウ川と黒海に挟まれたドブルジア地方で最大の都市である。

そして、そのトミスの宮殿、元はこの地を支配していた低モエシア王国の王城だった場所にて、ラウルは転移してアヴァール王マンドリカルドに謁見していた。

突如として現れたラウルとディオスクロイたちに驚愕したマンドリカルドだったが、さすがは騎馬遊牧民の王というべきか、すぐに臨戦態勢になって警戒を見せた。
そこでラウルがロタリンギア王であることを名乗れば、瞬間移動という魔法の高度さもあって、マンドリカルドは驚きつつ事実として受け入れた形だ。

同盟のために殴り込んだと話したラウルに、至極当然の反応で慌てふためいている。

突然のことに、王の間にいた使用人は兵士たちもポカンとしていた。
見かねて、カストロが低く唸るように声を張る。


「いつまで頭を挙げているつもりか。ロタリンギア王の御前であるぞ!」

「わきまえなさい、ここにおわすはウェスティア最大の王ですよ」


ポルクスも張り詰めた声で続いたことで、ようやく広間にいた人々は慌ててよろめきながらも平伏する。
しかし、マンドリカルドはそれを見てむっとした。


「…いきなりそちらが前触れもなく現れておいて、頭を下げさせるとは、ロタリンギア王はそんな偉いんすかね」


まだラウルの2歳上と若く、ラウルの突然の来訪に慌てていたマンドリカルドだったが、王としての責務を果たそうという気概はきちんと伝わってきた。
この街の人々からすれば、いきなり母国を滅ぼして支配した東方の蛮族の王であろうに、あまり城の人間はマンドリカルドを敵視している気配はなかった。少なくとも城内では、マンドリカルドは王として認められているようだ。


「偉いかどうか、と言われると正直そうだと言わざるを得ない。だが、あなたの言う通りだマンドリカルド王。非礼を承知でここにいる、だから皆を楽にさせて構わない。歓迎も不要だ、仕事に戻ってもらっていい」

「…そういうことなら。皆の者、持ち場に戻れ。ロタリンギア王は俺が直接応対する」


マンドリカルドの言葉で、頭を下げていた人々は恐る恐るそれまでの仕事に戻り始める。
マンドリカルドも玉座から立ち上がると、こちらを手招きした。


「…案内する」

「おう」


マンドリカルドに連れられて、玉座の奥から城の深くへと入っていく。
つい最近まで東ラバルム帝国の要塞都市でもあったため、全体的に無骨な造りをしている。さすがにここと比べれば、レッツェ城の方が華やかだ。
ところどころ、タペストリーは東方の騎馬遊牧民のものがかけられており、異国情緒漂う内装は正直好みだった。

そうして通されたのは王の私的な貴賓室のようで、ラウルはソファーに、双子は背後に立って控える。
マンドリカルドはラウルの向かいに座った。


「…あー、心臓に悪ィ…めっちゃ冷や冷やしたんすけどぉ…」


そして、おもむろにマンドリカルドはぐったりと背もたれに体を預けて情けない声を上げた。
シャルル同様、マンドリカルドも王としての自分と個人的な部分とを切り分けているらしい。


「ほんとに悪いな、何せ国交がない分、前触れも何も出せなくて」

「いや、むしろこっちの方がいいかも…?前触れ出されて公式訪問ってことになったら、その方が困ったと思うんで。俺、西方の王を迎えるマナーとか分からねぇし…この城だって、俺にとってはめちゃくちゃ豪華っすけど、メティスの宮殿からすれば倉庫みてぇなもんだろうし…」

「倉庫の方が豪華だな、メティス宮殿の倉庫は壁に金箔貼り付けてるし。でもほら、俺が今住んでるレッツェ城はこっち寄りだから」

「…?ロタリンギア王って、メティスにいるんじゃ…?」

「俺は遷都して、今の王都はレッツェにしてるんだ。知らなかったか?」

「…初めて知ったっす……すんません、田舎の蛮族で……」


もう3年は経ったはずだが、いまだにロタリンギアの王都がレッツェにあると知らなかったようだ。確かに、アヴァール国はドのつく田舎だろう。


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