chapter. 7−4
とりあえず、ラウルはマンドリカルドになぜ同盟を持ち掛けたのか、きちんと説明することにした。もちろん、先ほどの雑駁な説明はわざとだ。あの場には多くの人間がいたため、こうして二人になって初めて正式な話ができる。
「まぁ、とりあえず本題に入るぞ。ロタリンギアとの同盟の話だ」
「はぁ…なんつか、現実感ねぇ〜…」
遊牧民らしいフランクな態度は、逆にラウルにとっては楽でいい。かしこまられた方がやりづらい。
「ロタリンギアの両脇にはガリアとゲルマニアがある。この2つの王国は、ロタリンギアにとって兄弟国だけど、一方で敵国でもある。虎視眈々とロタリンギアの領土と王冠を狙ってるんだ」
「ガリア王はラウルの貞操も狙っているがな」
「ちょっと黙ってようなカストロ」
いったんカストロを黙らせてから話を続ける。マンドリカルドは微妙な顔をしていた。
「そんで、アヴァール国にとってもゲルマニアは潜在的な脅威だろ。南にパールス帝国、北にゲルマニア王国、挟まれた緩衝地帯のようになっているのはロタリンギアと同じだ」
「まぁ…確かに。イステル川流域の平野部を旧ダキア領からいつでも攻め込まれかねない状況っすからね。俺としては、少しでもウェスティアの国家みたいにしようとはしてるんすけど…」
「そこが重要だ」
ロタリンギアとアヴァール国は、ゲルマニアという共通の潜在敵国を抱えている。
単純に攻め込まれるかもしれないという脅威でもあるし、アヴァール国の西、ラウルの世界で言えばセルビア南部からブルガリア西部にあたる高モエシア王国とアルバニア・モンテネグロにあたるイリュリア王国は、アヴァール国とゲルマニアがどちらも狙っている地域だ。
アヴァール国は少しでも西方風の国家になろうとして、低モエシア公とベッサラビア公を配置して封建制を取ってみたり、経済の高度化を図ったりしているが、ウェスティアの国々からは相手にされてこなかった。
「俺がお前の戴冠式をやることで、アヴァール国を正式にウェスティア世界における王国として承認し、同盟関係を構築するってのはどうだ?ゲルマニアがロタリンギアかアヴァール国に侵攻すれば、ロタリンギア、ブリタニア、アヴァール国の3方面作戦を強いられる。このあと、俺はポルスカにも向かう予定だから、ポルスカとも同盟できればゲルマニアは包囲される」
「え…ええっ!?いいんすか!?」
西部国境を接するロタリンギア、海上国境を接するブリタニア、そして南東国境を接するアヴァール国の3方面で戦争するということになれば、さすがのゲルマニアも苦しい戦いになる。
このあとのポルスカとの同盟もうまくいけば、ゲルマニアを包囲することが可能だ。
素っ頓狂な声を上げたマンドリカルドだったが、まるで上手い話の裏を疑うように怪訝にする。
「…願ってもねぇっすけど…それ、ロタリンギアにメリットあるんすか…?」
「イステル川の河口部を握ってる国だからな、軍事的な面だけでなく経済的にもゲルマニアを圧迫できる。騎馬民族の機動力は肥大化したゲルマニアには天敵だし、アヴァールと接している領土はつい最近まで独立国家だったからゲルマニアにとってもまだ不慣れな土地だ」
「なるほど…でも、見返りとか…」
「別に何か寄こせとかは言わないけど…そうだな、このあとのポルスカとの同盟にあたって、できればオデソス伯領をルテニアに返還してくれると助かるな」
「はぁ…それだけっすか、別にそれは得られるメリットに比べれば許容できる範囲っすけど…」
ラウルの世界で言えばポーランド、ベラルーシ、ウクライナ、バルト三国、そしてロシア西端部にかけての広大な地域を支配する、ポルスカ=ルテニア連合王国は、オスティア国家の大部分を併合した強大な国であり、現状、ウェスティアとオスティア全体で考えても最も広い領土を持つ。
この国とも同盟することで大手だ。そのために、ルテニアからアヴァールが奪った港湾都市オデソス、ウクライナのオデーサにあたる都市だが、これをルテニアに返還させる約束を手土産にしようと思っていた。
「じゃ、細かい話はまだ今度。次来るときはウェスティア式の戴冠式だ、当然、俺は公式訪問するからな」
「ヒエッ」
ラウルは立ち上がりながら、情けない声を上げたマンドリカルドに苦笑する。
「別に、ウェスティアっぽくやろうと身構えなくていい。アヴァール人らしくやればいいんじゃないか。お前たちはお前たちの在り方を守った方がいいと思う。そこのタペストリーとか格好良くて、俺は好きだ」
「っ、蛮族の遅れた文化じゃねぇんすか」
「本当に優れているものは、ほかのものを貶めて下げなくてもそこに在るだけで優れているんだ。ほかの文化を貶めないと秀でていられないなら、それは偽物だ。ずっと先祖から大事にしてきたんだろ?自分の根本を構成するものなんだろ?それなら、お前たちの文化だって、ちゃんと本物だよ」
ぐっと唇を引き結び、マンドリカルドは言葉を詰まらせる。そして、ソファーから降りると床に膝をつく。
「少し気は早いが…俺はあんたに忠誠を誓う。ブリタニアやガリアの騎士に比べれば見劣りするかもしれねぇが、伊達に東方からウェスティア1つ分をまたぐ距離を移動してきたわけじゃねぇ、あんたに何かあれば、すぐに駆け付けるっす」
「…あぁ、ありがとな、マンドリカルド。公式の場じゃなければ気安くしてくれ、年の近い王はあまりいないんだ」
「…うっす」
少し照れたようにしたマンドリカルドは、それでもはっきりと頷いてくれた。蛮族などではない、人を想うことができる限り、貴賤なく、人は人なのだ。