chapter. 7−5


トミスから一度レッツェに戻ったラウルは、数日後、次の訪問先に向かった。

アヴァールは国交がなかったために強引な訪問をせざるを得なかったが、今回向かうのはポルスカ=ルテニア連合王国であり、古くからの付き合いがあるオスティアの大国だ。
ウェスティアの盟主がロタリンギアなら、オスティアの盟主はポルスカだった。そういう関係性だったこともあり、外交ルートも確立していることから、きちんと訪問を申し込み済みである。

今回もディオスクロイの二人を連れて、指定されていたクラクス宮殿に転移した。


「ロタリンギア王のお出ましです!」


転移が完了した途端、衛兵の高らかな声とともに、出迎えた使用人たちが一斉に頭を垂れた。
王宮の大広間、広大な吹き抜けの天井の空間に響く声と、両脇に並んだ大勢の使用人たち。赤いカーペットに着地したラウルたちの正面には、ほぼ同い年の少年と少女が立っている。会うのはこれが初めてだ。


「ポルスカへようこそ、ロタリンギア王。歓迎する」

「ようこそおいでくださいました」

「こちらこそ、突然の連絡で悪かったな」


少年の方はカドック・ゼムルプス・シレジア、少女の方はアナスタシア・ルテニアという。
カドックはポルスカ大公、アナスタシアはルテニア大公の地位にある。


「本日、イヴァン陛下は王都メンスクでお休みになられております。お会いできず残念がられておりました」

「今は大切なお体を十分にお休めいただくべき時。大公らにお会いできただけで喜ばしいことだ」


この国は特殊な形態をしている。

ポーランド、ウクライナ西部、ベラルーシ西部、ロシア領カリーニングラード、リトアニア、ラトビア南部にあたる地域を領土とするポルスカ大公領、そしてウクライナの大部分とベラルーシ東部、サンクトペテルブルク周辺以南のロシア西端部にあたる地域を領土とするルテニア大公が実務的にこれらの地域を支配しているが、ポルスカ大公とルテニア大公をまとめる摂政大公としてイヴァンという人物が君臨していた。
イヴァンはポルスカ=ルテニア連合王国の王として認知されており、ヨーロッパにあたる地域で最も大きな領土を統括する立場である。

このような形態から、首都も3つある。
ポルスカ大公領の首都がここクラクス、そしてルテニア大公領の首都はクィィヴ、連合王国としての王都はメンスクにある。

それぞれ、ポーランド南東部の古都クラクフ、ウクライナの首都キエフ、ベラルーシの首都ミンスクにあたる都市だ。

イヴァンは体調が優れないようで、最近は寝たきりだと聞いている。それでも絶大な権力を握っており、世襲で自身の子に王位を継承させるつもりでもあるそうだ。
ロタリンギア王の応対にポルスカ大公とルテニア大公の二人が出てくるのは妥当なところだろう。

ラウルとしては、早速本題に入りたかったのだが、アナスタシアが先に切り出した。


「この国に外国の王が訪問するのは数十年ぶりなの。よろしければ、今日は古きクラクスの都の景色を、城からでもお楽しみになって。お食事も素敵なものを用意しているの。今日の午後と明日の午前中に、難しい話は回しましょう」

「…悪いなロタリンギア王、言ったら聞かないんだ」


アナスタシアは難しい政治の話よりも、外交訪問としての華やかな方を期待しているようだった。カドックは呆れたようにしながら、諦めた様子だ。


「あ、あぁ…構わない、俺もクラクスは初めてだ。西ラバルム帝国初期の時代にはメティスより栄えたとも聞く」

「そうだな。僕としては、ぜひメティスの方に行ってみたいものだが…」

「だめよカドック、今の流行の最先端はアンドウェルピアよ。メティスの貴族文化もいいけれど、やっぱりアンドウェルピアの最新ものは刺激的で飽きないわ」

「はいはい、機会があったらな。ロタリンギア王、とりあえず貴賓室に案内する」


まるで天真爛漫な彼女に振り回されるおとなしめの彼氏のようだとは、さすがにラウルも言わずに心にとどめておくことにした。


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