chapter. 7−13


ラウルの場合、デナリウス銀貨が大量に必要となることで銀が枯渇し含有率を下げざるを得ない事態になるのを避けるため、一つ上のソリドゥス銀貨の使用量を増やすことを目的に、ソリドゥス銀貨の銀含有量を95.8%、トータル質量4.2グラムとした。デナリウス銀貨は、質量がラウル即位前で0.33グラムだったところを0.35グラムに引き上げている。
そうすると1リーブラは84グラムと非常に重くなってしまうため、存在はしているものの、ロタリンギア王国では滅多に発行されることがない。要は、現代日本で言うところの銭のようなもので、実体のない貨幣を名目貨幣と呼ぶが、それに近しい状態になっている。

そんなロタリンギアの通貨と、連合王国の通貨との為替相場を公定レートとすることは、両国の貿易量を増加させるだけでなく、ゲルマニアやガリアなどの他の通貨が溢れている国に対して経済的優位性を保つことになる。ロタリンギアにすれば、自国通貨の価値をさらに高めることになるため、この先多少の銀含有率の引き下げを行っても問題ない。
現在、連合王国においては、イヴァンのメリゴー貨ではなく、ヴァルソヴィア造幣所が発行するポルスカ貨が市場で流通しており、これも金貨と銀貨に分かれている。

つまり、ロタリンギア貨とポルスカ貨の公定レートを定めるということは、イヴァンの発行した貨幣を全否定することになるわけだ。
一度ロタリンギア側がポルスカの通貨との公定レートを決めてしまえば、最大の経済大国となったロタリンギアとの取引を維持するため、人々はメリゴー貨ではなくポルスカ貨を使い続けることになる。当然、連合王国内の貴族や議会においても、経済取引や自分の家の資産を守るために、ロタリンギア貨と連動するポルスカ貨を志向する。


「為替レートの設定は俺が要求したと言っていい。経済の中心たるメティスとアンドウェルピアを擁するロタリンギアが定めたレートだ、イヴァンがなんと言おうとどうしようもなくなる」

「同時に連合議会におけるイヴァンの地位も下がる、ってわけか」

「良い提案ではなくて?カドック。軍事、貨幣、関税、金融、そしてオデソス。これだけの材料が揃えば議会でのイヴァン陛下の立場は急落します」


カドックは、それらの方策の行方を脳内でシミュレーションしているのだろう、少し黙ったあと、ひとつ頷いた。


「…分かった。提案を受け入れよう、ロタリンギア王。晴れて、僕たちは摂政大公から親離れして、この連合王国を第二次大陸連合に加える」

「……第二次大陸連合」

「なんだ、違うのか?まるでルータール3世の大陸大連合のようじゃないか。ゲルマニアとガリアがいない上に島国も入っているからな、大陸連合ではないかもしれないが」


カドックの言葉に、言われてみれば、と思い至る。かつてブリタニア戦争中に亡国の危機に瀕したガリアを救うべく、すべての大陸部の国家をロタリンギアがまとめあげ、ブリタニアをブルトン公国まで追いやった。
400年前の、ロタリンギアが最も権威をもっていた時代の話である。


「あんたのやっていることはルータール3世にも近しい偉業だ。潜在敵国だったブリタニアに始まり、東方民族のアヴァールや僕らの連合王国まで加えるんだからな」

「べ、つに、そんな大層な話じゃねぇだろ…俺はただ、国民の命や生活が守られる国際社会であってほしいだけで…」


手放しで褒められてしまうと、どう反応すればいいのか分からず、ついもごもごとしてしまう。それを見てカドックは意外そうにしてから苦笑する。


「…なるほどな、双子があんたに向ける目の意味がよく分かった。ひょっとして、ブリタニア王や、ロタリンギアに亡命したっていう旧東ラバルム皇帝とかもそうか?」

「フン、その二人だけならまだしも、今ではガリア王や場合によってはアヴァール王までも含めることになる」


どういう質問か分からなかったが、それを見越したようにカストロが答えた。アナスタシアはその答えを聞いてクスクスと笑った。


「ふふ、それなら護衛のあなたたちは心労が多いでしょうね」

「まったくだ」


ラウルを放って、その場の空気は弛緩する。なんだか心外なことを言われている気がするが、とりあえず話はまとまった。

これでポルスカ=ルテニア連合王国との同盟関係も構築された。ゲルマニアは今や、三方向を囲まれ身動きが取れなくなっている。
もともとガリアはブリタニアとルシタニアによって挟み込んでいるため、これである程度の安全が保たれる。

ここまで来れば、満を持して最後の一手が打てるだろう。


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