chapter. 8−1


秋に蒔いた種を、冬を超えて春に収穫するように、秋までにラウルが秘密裡に同盟関係を構築したアヴァール国、ポルスカ=ルテニア連合王国との正式な同盟の発表は、翌年の春に行われた。

1277年3月、長い冬を終えてから、ラウルはマンドリカルドの戴冠式を行って正式にアヴァール王国を承認し、公式の国交を樹立。
続けて、冬の議会でカドックとアナスタシアが貴族たちに宣言した通り、ロタリンギアとの様々な関係が実行に移され、為替レートの設定や関税の引き下げ、遠隔金融の成立、そして軍事同盟の締結とオデソス伯領のアヴァール王国からの返還が行われた。

貨幣高権の実権が事実上ポルスカ大公カドックに移管された上に、周辺国への牽制となる多国間同盟に参加できただけでなく、最大の港であるオデソス市も取り返すことができたため、連合議会はカドックとアナスタシアの大公としての地位を確固たるものと認識した。
いまだイヴァン摂政大公は座に残っているが、実権は今やカドックとアナスタシアに移っている。

これまで間接的な関係だったルシタニアとバエティアに対しても、ラウルは宗主国王としての戴冠式を遅ればせながら実行し、正式な同盟関係を構築。
ヒスパニア半島最大の交易都市であるルシタニア東部の大都市トゥレトゥムには、アンドウェルピア、ヴァルソヴィアに次ぐ3番目の遠隔金融機関となるトゥレトゥム取引所が設立され、大陸部の金融ネットワークは名実ともにロタリンギアを中心に据えた。
なお、トゥレトゥムはラウルの知るところではスペインのトレドにあたる。

今後、ドーヴァーにあたるブリタニアの交易都市デーヴァーとアヴァール王国の王都トミス、そしてアルヘシラスにあたるバエティアのポルトゥス=アルブス市でも取引所が開設されることになっており、アンドウェルピア為替取引所を本拠地とする遠隔金融ネットワーク「取引所連盟」が発足し、ウェスティアとオスティアに跨ることになる。

ここまでくれば、軍事的にも、そして経済的にも、最後にして最大の手を打つことができる。


***


「本当に行くのだな」


カストロに念を押され、ラウルは正装のマントを纏いながら頷く。


「行くって言ったしな。先方から了承と招待が来たんだ、もう引き下がれないぞ」

「引き下がるつもりなんかなかったしょ、ラウルは」


ロビンも苦笑しつつ、ワインを適当に飲み干す。ポルクスはラウルの身支度が終わったかどうか、不足がないかくるくると回って見てくれる。


「準備完了しました。それにしても…本当のところ、下ロタリンギア公も連れて行った方が、とも思ってしまいます」

「変に刺激するかもだしな。それに、現状この国で俺の次に王位に相応しいのはコンスタンティノスだ。留守を任せたい」


双子が気をもむのも無理はない。
なにせ、これから向かおうとしているのは新ラバルム帝国。かの有名なルキウスが統治する新興国である。

北はブリタニア王国、西はルシタニア王国とバエティア王国、東はポルスカ=ルテニア連合王国とアヴァール王国との同盟を構築したのだ、残るは南だけとなる。
現状、最もガリアとゲルマニアが警戒している相手であり、ロタリンギアにとっても警戒すべき相手だ。シャルルが言っていた通り、ルキウスは何らかの形でロタリンギアの王権に干渉しようとするだろう。

とはいえ、彼のいた東ラバルム帝国は決して蛮族ではない。むしろ、高度な社会を持っていた先進国だった。
公式訪問してくる、同じラバルムの血を引く王に無理やり何かをしようとはしない。

ただ、こちらも最低限の警戒はしている。具体的には、普段は双子だけを伴うところ、ロビンも透明化させた上で同行する。
また、コンスタンティノスには何かあったときにはロタリンギアを臨時統治するよう依頼している。そのため、コンスタンティノスは一時的にメティスに滞在している。何かあれば、モレーとともに旧王都メティスで貴族たちを束ねて国を維持するのだ。

イタリアにあたる新ラバルム帝国と同盟すれば、ガリアとゲルマニアがロタリンギアに手を出すことはほぼ不可能となり、一方で新ラバルム帝国への牽制にもなる。加えて経済的にも、ガリアとゲルマニアが新ラバルム帝国との物流を停止していることによるウェスティア全体の不況を回避することができるかもしれない。


「…よし、行くぞ」


大きく息を吸い込んで、ラウルは転移を決行した。


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