chapter. 8−3
そうしてしばらく部屋で待っているときだった。
この貴賓室に通されて15分ほどしただろうか、まずロビンがぴくりとしてフードを被る。
「来ます、足音からして武装済み。王としての正装、かもですが」
「東ラバルム帝国の皇帝は正装が武装状態ですので、それ自体は問題ありません。陛下、ご準備を」
「あぁ」
ラウルは立ち上がり、カストロの後ろに立つ。ポルクスはそれより少し前に出て、いつでも抜刀できるように剣の柄に手をかけた。ロビンは姿を消して、部屋はピリっとした緊張感が満ちる。
直後、扉が乱暴に開かれた。蝶番が軋む音とともに開け広げられた扉から部屋に入ってきたのは、燃えるような赤い髪を跳ねさせた大柄な男。ランスロットほどではないが、ガウェインやアーサーよりは上背があるだろう。
前髪は意志の強い瞳を隠さないように正面で交差しており、ギラリとした眼光が直接こちらを射貫く。
厳戒態勢であることを理解したルキウスはニヤリとすると、目にもとまらぬ速さで床を蹴り、そして瞬時に目の前に現れた。
「ッ、」
「ラウル!」
すぐにカストロの盾が、ルキウスの剣を弾く。静かだった貴賓室に、鉄と鉄が衝突するとてつもない音が響き渡り、空気がビリビリと震える。
盾に弾かれたルキウスに、ポルクスが剣で切りかかるが、ルキウスは簡単にそれを避けると、ポルクスを剣ごと吹き飛ばそうとする。
しかしポルクスは俊敏にすべて避けると、もはや目では負えない光魔法を纏った速さでルキウスと剣戟を開始した。
金属がぶつかる甲高い音が絶え間なく響き、衝撃によって花瓶や絵画が切断されカーペットがほつれる。あまりの速さに、ロビンもボウガンを射出できずにいた。
すると、ルキウスは楽し気に顔をゆがめた。
「良い!良いぞロタリンギア王!腑抜けた姿を見せようものなら殺していた!こうでなくてはなァ!!ラバルムの血とは、こうではなくてはならない!!」
「貴様、ロタリンギア王になんたる狼藉かッ!!」
カストロはキレながらも、ポルクスの援護に入るタイミングを冷静に見極めている。ルキウスは楽しそうに剣を振るっているが、ポルクスは息を切らして必死に食らいついている様子だ。
さすが剣帝と呼ばれた男だ。ルキウス自身の剣の技量は大陸中に聞こえていたが、これほどとは。
そこに、ひときわ重い一撃がポルクスの頭上に振り下ろされる。頭蓋骨はおろか首まで切り裂くであろうその一撃は、ラウルがカストロを転移させたことで盾に防がれる。同時に、ラウルはポルクスをルキウスの背後に転移させた。
「殴る方が!」
「速い!!」
そして、カストロとポルクスは息を合わせて拳を叩き込む。革のグローブをしているが、ルキウスの鎧に罅が入る音がした。さらにポルクスは思い切りルキウスの腕を掴み背負い投げの要領で投げ飛ばす。
良いのが入ったはずだが、ルキウスは瞬間的に体を強化して、強引にポルクスを跳ね飛ばして床に着地、衝撃で大理石が砕けた。
あれは強化魔法、最も人口が多い魔法であり様々な応用が利くが、ルキウスは逆に言えば、魔法を使わずに、魔法を使っているポルクスを押しながら剣戟を繰り広げていたことになる。
しかし、ルキウスは満足したのか、それ以上の攻撃はしてこない。
「これが噂に聞く転移魔法か。なるほど、火力などはなくとも、確かにこの魔法さえあれば一国を滅ぼすに足る力だ。王に顕現したなら文句なしの最強と言える」
「随分な挨拶だな。まぁ、肩書としては俺の方が多いから、俺の自己紹介と同じくらいの時間の出来事だったけど」
「フッ、胆力も申し分ないか。当然だな、あのロタリンギアにおいてあれだけの貴族の排斥を行ったのだ。ガリア王の生家すら取り潰したと聞いている。いいだろう、貴様の話を聞いてやる」
話をするに足る人物かどうか、この男は直接戦闘によって確かめたようだ。それだけ聞けば野蛮な話だが、先ほどポルクスが言っていたように、東ラバルム帝国は古くは軍人こそが頂点に立つ国だった。
ここ半世紀ほどは、ウェスティアのような文人皇帝が続いていたためその価値観も薄れつつあったが、それでもコンスタンティノスだってどちらかと言えば武人だった。
魔法を使って戦争で活躍した者が貴族に、ひいては王になるという古代の習わしを体現しているともいえる。