悪性隔絶魔境新宿I−10
その後、構内の別の場所から響いてきた戦闘音が新宿のアーチャーのものだと分かり、すぐにそちらへと移動した。
広い新宿駅であれど戦闘音がすればすぐに気づける、というのは、唯斗が当初立香と合流するために考えていた手段でもあるためよく分かるのだが、それで危機に陥っているのは本末転倒だろう。
先行して駆けつけたアルトリアがアーチャーを取り囲む男たちをすべて倒したところで、追いついた唯斗たちもアーチャーについに合流する。
「いやはや、危ないところだった。無事に合流できて良かったよマスター君」
新宿のアーチャー、と名乗ったサーヴァントは、初老の白人男性で、英国貴族風の服装をしている。左肩には青い蝶を模した大きな襟装飾があり、先ほど遠目では棺桶からミサイルのようなものを射出して攻撃しているように見えた。
その棺桶を消して、アーチャーは危機を救ったアルトリアに恭しく礼をする。
「それから、そちらの騎士殿はあのとき、バイクにマスター君を乗せて逃げてくれた方ですな。感謝します、騎士殿」
「ほう、あの状況で私を視認していたか。新宿のアーチャーと名乗るだけのことはある」
「ッ!?」
そう言いつつ、アルトリアは瞬時に剣で斬り掛かった。アーチャーはすんでのところで避ける。それは瞬発力があるというよりも、「そうなる可能性が高いと分かっていた」動きだ。
「ええと、何の真似ですか?って聞かなくても大体分かっちゃうんですけどネ!」
「やはり、あのときと同じ顔だ。別人だとは考えられぬ。貴様、何者だ」
アルトリアはアーチャーと戦ったことがあると言っていた。騎士王を前にして逃げおおせたのだ、相当な実力があるはず。
アーサーもエクスカリバーを消してはおらず、状況を見守ってはいるものの警戒は解かなかった。立香はあわあわとしているが、一方でアルトリアも追撃の気配は見せない。
「…あのとき藤丸を庇おうとした貴様の姿は、紛れもない真だった。正式なマスターではない以上、我々の現界には関係せず、人理焼却が破却された今、世界に影響も与えない。あらゆる意味で、あの瞬間、庇う必要はなかった。お前の死への怯えは、本当に真実だった。なぜ、助けた」
アルトリアは立香を庇ったアーチャーの言動が本物で、自身が戦ったときとまったく違うことから、いったいどういうことかと正そうとしているようだ。そのため、殺意より戸惑いの方が大きいように思える。
アーチャーは手袋をした右手を握りしめ、それを見つめながら、迷ったように言葉を選ぶ。
「……いや、そこは本当に分からんのだよ。自分でも何かこう…体が勝手に動いてしまってね。だが言われてみれば不思議極まりない!無駄な死を何より嫌う私が、なぜあのとき動いたのだろう!…なぜだと思うね?」
アーチャーは立香に問いかける。立香は困惑しつつ、「こっちに聞かれても…」と尤もなことを返した。
「では貴様に問おう。私が戦った、あの新宿のアーチャーとはどういう関係だ?」
「あの男と戦って生き残ったのか。それはすごい」
「乱入者がいてな。それより、お前は何者だ。無関係ではないのだろう」
「私は……言うなれば分け身だよ。残滓、あるいは廃棄物だ。私は姿形こそ同じであるものの、真名を奪われ、力の大半を削がれた者だ」
どうやらアーチャーの語るところ、そしてカルデアの観測によれば、彼は二人いるようで、それは霊基が二つに分裂しているからであるらしい。
いわば、善性と悪性で切り離された二人の同一人物だ。
この霊基が合わされば、真名も取り戻せるかもしれないとのことである。
新宿のアーチャーは改めて、真名を取り戻すという個人の目的とともに立香に手を貸すことになった。