悪性隔絶魔境新宿I−9
翌朝、朝になっても日が昇らない常夜の街だと事実に驚いた唯斗たちだったが、新宿駅に到着すると、それ以上の様相に愕然とした。
「なんだこれ…」
「俺の知ってる新宿駅じゃないな…」
『なるほど、新宿駅はラビリンスだったのですね』
『違う違う…いったいどういうことだい?これ』
新宿駅はまるでアステリオスの迷宮のように、文字通りの迷宮と化していた。確かに増築やら回収やらで思った通りに動けない駅ではあるが、見た目からして完全に迷宮というものではなかった。梅田駅の方がまだダンジョン感があった。
アルトリアは肩を竦めて軽く返す。
「さあな。どこかのサーヴァントの力なのか、それとも新宿駅そのものが『新宿』という街に当てられたのか…いずれにせよ注意しろ、この変質によって本来より出口は少なくなっている。一度迷い込めば冗談抜きにのたれ死ぬことになるぞ」
まさか新宿駅で死を覚悟することになるとは思わなかった。どうやら立香も新宿には馴染みが深いようで、恐る恐るといった感じではあるが、一方で元の面影を残す迷宮を興味深そうに見ていた。
そうして二人のアーサー王と立香、唯斗とで構内を進んでいくが、アルトリアは周囲を見渡して訝しげにする。
「…おかしい」
「どうかした?」
「駅を根城にしていたチンピラたちが姿を消している。いや、それ自体はよくあることだが、ここの通路にあったはずのキャンプが綺麗に片付けられているのは解せんな」
恐らく東改札と西改札を結んでいた通路にあたる場所であろう、幅の広い通路は綺麗になっているが、確かによく見れば、人為的な火の跡やものが置かれていた埃の形が見て取れる。
「確かに、人の生活の痕跡があるね」
「少なくとも食事や睡眠をしていたような跡だな。トイレは駅の施設を利用してたんだろ」
「なかなか鼻が利くじゃないか」
立香と唯斗で壁際を注視してアルトリアに補足すると、アルトリアはふっと微笑む。
そしてすぐに表情を険しく戻して、通路を見渡した。
「…片付ける必要があるのは、要するにここで起きた出来事を知られたくないからだ」
「なるほどね、理解したよ」
そんなアルトリアに、アーサーはそう言いながらエクスカリバー出現させた。風王結界こそ纏っているが、すでに索敵体勢に入っている。
これが罠だと理解した唯斗と立香、こちらが理解したと踏んでニヤリとするアルトリア。
「仮に貴様らだけでここを訪れ、空っぽのキャンプに散乱している薬莢、それに血痕を見たらどうする?」
「まぁ、逃げるかな」
「あぁ、その通り。さて、奴らの誤算はこの駅を知っている者が同行していること。そしてそれに気づいた奴らはこれから予定外の奇襲をかけてくるというわけだ、マスター」
「…了解、頼むね、アルトリア」
そこへ、ホームの階段や他の通路から突如として足音が響いてきた。その正体はすぐに姿を現す。
武装した男たちのようで、黄色や黒のフルフェイスのヘルメットを被っている。手にはショットガンを携えており、まるで現代の特殊部隊のようだ。
「アルトリア、立香は俺の結界で防御する、立香の攻撃指示に専念してくれ」
「ほう、なるほど。それは楽でいい」
「マスター、藤丸君を頼むね。でも気をつけて」
アーサーはそう言ってすぐに東口方向へ駆けだした。立香はアルトリアにアーサーとは逆の西口方向への突撃を指示する。
同時に、唯斗は透明な結界を自分と立香の周囲に展開した。背中合わせに立ち、円柱状の透明な結界から二人のアーサー王へそれぞれ指示を出す。
これまでであれば、攻撃が迫ってから結界を展開すれば良かったが、銃弾は発砲されてからでは間に合わないため、常時展開する形を取った。
武装した男たちは次々と発砲するが、アーサーはすべて弾いていく。跳弾したものが結界に当たると、やや唯斗の魔術に干渉してきたため、やはりこの銃弾もただの銃弾ではないようだ。
単なる人間の武器であればサーヴァントにはほぼ効かないが、これならダメージが入ってしまう。
「アーサー!この銃弾は魔術が籠められてる、当たるなよ!」
「了解!」
唯斗の声はアルトリアにも聞こえていただろう。ただ、そうでなくともこの二人が銃弾に当たるようなへまをするとも思えない。
あっという間に武装した男たちは全員が地面に倒れ、駅構内に響いていた戦闘音が止まる。アルトリアの方を確認すると、禍々しい気配を放つ魔剣のようなエクスカリバーが、剣そのものは見えないながらも邪気を纏っていた。
そうした変質があってもなお、アルトリアの剣裁きが陰ることはないようだ。