深海電脳楽土SE.RA.PH−21
BBは、今度は特に嫌みもなく状況の説明を始めた。
どうやら立香たちは、一足先にキアラと会敵したらしく、そこで全滅しかけた。しかしその寸前、BBが立香たちの座標を転移させ、SE.RA.PHの海上100メートル地点にあるこの学校に出現させた。
情報化された特異点であるSE.RA.PHは、その通った跡も情報化されており、進んだ距離がそのまま時間軸となる。
つまり、100メートル上方というのは、およそ90秒前の時空ということになるのだ。
要は、上に行けば行くほど時間を遡れるということになる。
一方で、キアラの力から逃れ、2時間半前のレイシフトより前の時空に戻るには、光の速度にならなければならないそうだ。
そのため、キアラから逃げることができるわけではない。ただ、ここで体勢を立て直して、再度キアラを倒しに行くことはできる。
そこまで聞いて、立香は唯斗から体を離しつつ、首をかしげる。
「BBちゃんって、キアラの手下じゃないの?」
「ちーがーいーまーすー!!今までは規制がかかっていたから、SE.RA.PHの運営係に徹していただけなんですぅー!でも、その職務も聖杯戦争が終わったので解除されました」
「…?」
今度は唯斗が首をかしげる番だった。先ほどのBBと言っていることが違う。BBの目的は、キアラをカルデアが倒したあとにSE.RA.PHを再構築して人類を監督する立場に君臨することだった。
「BBの目的は、キアラを倒したあとに超級AIとなって人類を管理すること、じゃねぇのか?」
そこではっきりとそれを口にすると、タマモキャットや鈴鹿御前などがすぐに警戒モードとなる。しかしBBはこちらを見てため息をつく。
「それはキアラさんからサルベージされた私のことでしょう。その私は先ほど、コアでセンパイたちに倒されてしまいました。今のこの私は、並行世界のムーンセルから事態収拾のために派遣されたAIであるBBちゃんです。この世界に不要な干渉をするつもりはありません」
「齟齬があったのは異なる存在だったからか。理解した」
「え、BBあんた二人いたわけ?紛らわしすぎっしょ!!」
「目的が一致していたので共存していたんです。向こうも私も最終的にはキアラさんを倒すことが目的でしたから。唯斗さんとアーサー王を助けたのも、ビーストIII/Rを倒す切り札とするためです」
「III/R?」
BBが実は二人いて、片方はキアラからサルベージされ唯斗たちを助けた先ほどのBBであり、今のBBは立香たちをサポートしつつ事態収拾を図るムーンセルのAIであるBBだそうだ。
それは理解できたため、唯斗はこれ以上の警戒は不要だと判断する。
一方、立香はBBがキアラをビーストIII/Rと呼んだことに新たな疑問を抱いたようだ。
「立香、ビーストIIIとVIはLとRの対になってるんだ。キアラはIII/Rらしい」
「Rって、R指定ってこと…?」
まったく同じ発想をした立香に、アーサーがこっそり笑う。唯斗も笑いそうになったが、BBが先に訂正した。
「何言ってるんです?まったく。III/RのRはラプチャーを意味します。まぁ、私が今つけたんですが」
Rapture、喜びを意味する言葉だが、ネガティブな意味を持つ、堕落や退廃を喚起する喜びを指す。インスタントにつけた名前にしてはよくキアラの獣性を表現できているだろう。
「ともかく!これですべての因果、すべての状況は整いました。BBちゃんが人類の味方であること!敵はビーストIII/Rであること!そして、あなたたちでなければ、この未曾有の災害は防げません!人類の良きパートナー、SE.RA.PHの臨時管理者として皆さんにお願いします!地球に取り憑こうとするドブ川のごとき人類悪を、スパッと綺麗に拭き取るのです!」