深海電脳楽土SE.RA.PH−22
1時間後に再度キアラと交戦するため、少しの間休憩となる。
その間に、唯斗は立香と情報共有を行った。
まず唯斗とガウェイン、アーサーがキアラの襲撃を受けたこと、サルベージされた方のBBに助け出されてここにやってきたこと、ガウェインは消失してしまったことを話した。
恐らく、キアラは自身の脅威となる聖剣2本を始末するべく、唯斗を殺そうとしたのだろう。
一方、立香はその後、鈴鹿御前を仲間にしたり、メルトリリスとひと悶着あったりしたのち、コアに到達。そこでセラフィックスで行われていたことを知った。
「…ここの天体室にはね、マシュと同じ、デザイナーズベビーが集められていたんだ。128人」
「は…まさか、128騎のサーヴァントのマスターって…」
唯斗、そして同じく話を聞いていたアーサーは愕然とする。立香は表情を曇らせて頷いた。
「うん。この子供たち。天体室にはコフィンがあって、その中で聖杯戦争のマスターの役割をさせられてたんだ」
「でも、128騎は何度も呼び出されてたんじゃ…」
「キアラは、それを知って何度も召喚を行ったんだ。コフィンの中には生死がないから、中の子供たちをすり切れるまで使おうって…」
「…ッ、」
ピリ、とした感覚が肌を刺す。後ろに立つアーサーの殺気だ。珍しく、ほんの少しだけ、マスターである唯斗にしか分からない程度で、怒りを露わにしている。
唯斗が当初予想していた通り、アニムスフィアは、カルデアとセラフィックス両方で秘密裏に実験を行っていた。ゼパルがここに目をつけたのは、それが理由だろう。マスター候補となり得る魔術回路を持ったマシュのようなデザイナーズベビーが集められた、この隔絶された油田基地であれば、リソースに困らないからだ。
「エミヤ・オルタも、やっぱり狙いはキアラだったみたい。でも、俺たちそれを知らなくて…交戦して倒しちゃったんだ」
「…仕方ないことだろ、それは」
あのエミヤ・オルタもリスクのあるやり方をしたのだから、理解を得られず立香たちと交戦し倒されてしまったのであれば、それは致し方ないことだ。
「コフィンはどうしたんだ?」
「電源を切ったよ。もう、これ以上苦しむことはないから」
「…そうか。悪い、そういうとき一人にして」
「唯斗が謝ることじゃないよ。無事でいてくれただけで良かった。それに、一緒に戦えるし」
立香には苦しい思いをさせてしまった。せめて、最終決戦を一緒に戦えて良かった。
アーサーもそれに頷く。
「ビースト退治もこれで三度目だ。この聖剣、叩き付けてやろう」
***
1時間後、ついに出撃となった。
BBの力によって転移すると、そこは、まるで仏教で描かれる楽土のような空間だった。
後光の差す空間には、蓮の花が咲き乱れ、仏塔が立ち並ぶ。
しかしそんな美しい光景でもすべて薄ら寒く思えるのは、その中央に泰然と立つ女のせいだろう。
露出の多いゆったりとした服に尼らしい白い布を頭からかけている。しかし、その布からは禍々しい獣の角が生えていた。
「飛び去った鳥がまた戻ってくるなんて…こんなに微笑ましいことはそうありません。殺しそびれた異世界の聖剣使いとそのマスターも、自分から殺されに戻ってきてくださいましたし」
「殺生院キアラ!なんでビーストなんかになったんだ」
すると、立香は戦う前にそう尋ねた。相手を知ろうとする、というよりも、理解できない悪にそう言うしかなかったというところだろう。
キアラは頬に手を添えて頬を赤らめる。
「なんでビーストになったのか、ですか。ふふ、それは…羨ましかったのです」
キアラの答えは、先ほどBBから聞いたものと同じだった。時間神殿で繰り広げられた、英霊による繰り返しの魔神柱殺し。それを快感と捉える魔性の羨望だった。
「私もあんな風に責められたい。星の数のような英霊たちに殺されたい…ですが、人の身では、魔神の身ではその願いは叶いません。ですのでこれはもう、ビーストにでもなるしかない、と思ったのです」
「そ、んな…そんな理由で!?」
並行世界で、快感のために神になろうとしたのと同じだ。本質は変わらない。
メルトリリスは吐き捨てるように口を開く。
「絶句するのも分かるわ。でも、それがあの女よ。殺生院キアラ、あなたは人間を愛していると言った。救いたいとも。でも、あなたの世界において、人間はあなただけ。だからあなたは誰よりも人間を愛している。そのために、他のすべての命を利用する。だって、あなたにとって他の人間は人の形をした道具にしか見えないんだから!」
メルトリリスに続いて、パッションリップも毅然と立香の前に立ち塞がった。
「そうです!感情から生まれた私たちアルターエゴよりも、もっとおぞましい自己愛の化身。この世で最も利己的に人類を愛する怪物!それがあなたの正体です、ビーストIII!」
「その通りですが、なにか?」
しかしキアラは、平然とそう返した。悪びれることなど、この女にはあり得ない。
「今や我が身は快楽天、あぎとのごとき天上楽土。あらゆる命を果実のようにほおばりましょう。それでは皆様、済度の日取りでございます。天上解脱、なさいませ」
ビーストIII/R、快楽天魔性菩薩。その顕現である。