深海電脳楽土SE.RA.PH−25
こうしてSE.RA.PHが消滅したことで、どうやら唯斗たちをこの空間に留めておくことも、英霊たちを現界させておくこともできなくなったらしい。
レイシフトが始まる、五感の薄れる感覚が体を包み始めた。
ロビンフッドたちも次々と消えていき、最後にはBBと立香、唯斗、アーサーだけとなる。
「さて、藤丸センパイ、唯斗さん。最初はどうなることかと思いましたが、あなたは立派に人間の価値を示しました。えーと、百均?くらいの価値ですけど、でも、ゼロではないのでOKです!」
「やっす…」
「おっと。SE.RA.PHもいよいよなくなりそうです。その前にセンパイたちを送り返しますね。セラフィックスは海底に水没し崩壊してしまいましたが…キアラSE.RA.PHの消滅で、ビーストIIIに囚われていたサーヴァントたちも解放されるでしょう」
いよいよ、体にかかる重力がなくなって、光に包まれながら視覚と聴覚だけになる。その光の粒子の向こうで、BBはニヤリとした。
「それではまたいつか。縁があれば、電子の海でお会いしましょう!」
そんな声を最後に、すべての感覚が消失する。同時に、意識が引っ張られる感覚とともに、ふっと意識が覚醒した。
そこは見慣れたカルデアの管制室で、コフィンの中ではなかった。
いつもなら、コフィンの扉が開いてカルデアスの足下に出てくるはずだ。
なぜか、管制室の所長席の横に、立香とアーサーとともに立っていた。
つい、立香と顔を見合わせてポカンとしてしまう。
すると、ダ・ヴィンチが所長席からくるりと椅子をこちらに向けて首をかしげた。
「おや?どうしたんだい君たち、揃いも揃って。今日は非番だろ?というか、いつからそこに?」
「え…いや、セラフィックスは?BBは?」
「うん?セラフィックス?BB?」
レイシフト直前までの緊迫感などまったくなく、平常時の管制室があって、ダ・ヴィンチもいつも通りだ。立香が確認しようとするも、ダ・ヴィンチは疑問符を浮かべるばかりだった。
「確かにセラフィックスはカルデアと関係ある油田基地だが、なぜ今そんなことを?確か、今年の初めに解体されて、今ではもう何も残っていないはずだけどね?」
「は、解体…?」
どうやら、特異点SE.RA.PHの修復によって、正史に影響が出たらしい。すでにセラフィックスは解体されたことになっている。
つまり、あの特異点の騒動は、なかったことになったのだ。
唯斗はアーサーを見上げるが、アーサーは首を横に振る。今はありのまま受け入れるしかないだろう。
ただ、魔神柱ゼパルのこともある、報告はするべきだ。
「…ダ・ヴィンチ、立香。後で話そう。俺たちも情報を整理しないと…なんせ、魔神柱4体のうち1体を倒してきたんだから」
「……待て、何の話だ?」
ダ・ヴィンチは魔神柱と聞いて顔色を変える。立香だけなら、たまに夢でレイシフトまがいのことをして英霊と縁を結んで還ってくることもあるが、唯斗、さらにはアーサーも頷いていることから、三人が共通の意識を持っていることを理解しただろう。
「特異点修復によって、ダ・ヴィンチやカルデアの認識も含む歴史の改編があったみたいだ。とりあえず、俺たちはいったん頭ん中整理してくるから、ダ・ヴィンチはセラフィックスの記録をまとめておいてくれ」
「了解したよ。他ならぬ君たちが言うなら信じようじゃないか」
まずはこちらも少しだけ休みたい。唯斗は立香、アーサーとともに管制室を出て、ダ・ヴィンチには修復された歴史におけるセラフィックスの記録を確認してもらうことになった。
それなりに時間のかかることのため、いくらか休めるだろう。
「…まさか、こんなこともあるとはね」
「魔神柱案件だ、きっちり情報を整理しないと」
立香と並んで歩いていると、突然、アーサーが二人の前に出た。
「二人とも下がって」
「え、」
「おや、センパイに唯斗さんじゃないですか!」
なんと、廊下に現れたのはBBだった。にっこりと廊下の中央で微笑んで立っている。
先に探知したアーサーが二人を庇っているが、BBからは敵意を感じられない。
「夢だと思いました?夢だと思いましたか?なーんて、そんなわけはないのでーす!まあ、すべて虚数事象のこととしてうまく処理しましたが、新しいおもちゃを見つけたBBちゃんの魔の手は、容赦なくセンパイたちに襲いかかるのでした♡」
「勘弁して……」
げんなりとする立香を見て、BBは満面の笑みとなる。その顔が見たかったという顔だ。
アーサーも警戒は解きつつ、BBを眉根を寄せて見ている。
「ま、そーゆー訳なのでしばらくカルデアにいてあげます。こちらの人類も随分と追い詰められているようですし。人類焼却も人理再編もなんのその。恋とトラブルの相談はこの私にお任せあれ。あなたの頼れるグレートデビル、ムーンキャンサーBBの活躍をご期待ください!」
どう考えてもトラブルメーカーだろう。
そう思った三人の心は一致していた。