伝承地底世界アガルタI−2
特異点SE.RA.PHからの帰還から2週間ほど経った頃、ようやくカルデアは次の魔神柱の残党がいるかもしれない座標の特定に成功した。
そして、新たな特異点が発見された、という一報がマスター二人にもたらされたその日に、最初の会議が行われることになった。
管制室にやってきた唯斗と立香は、所長席でダ・ヴィンチからモニターを示される。
「さて、今回の特異点だが、年代は2000年。中央アジア東部、ヒマラヤ山脈が座標となる」
「ヒマラヤ?」
「あぁ。しかも座標はマイナス、つまり地下だ」
「なんだそれ、おかしいだろ」
唯斗は示された場所に驚いた。2000年というだけでもおかしいが、そもそも人口の希薄な場所で特異点が発生するなどおかしい。しかも地下空間などいよいよ特異点というよりフィクションだ。
前にアキレウスや天草と戦った特異点も、人里でこそなかったが、特異点の原因は廃墟の神社という人工物にあった。
「そう。そして、我々はこの特異点に魔神柱が関わっている可能性が高いと判断し、同時に、新宿やセラフィックスの特異点を含めて新たにカテゴライズすることにした。これまでのゲーティアによる特異点とは性質が異なるからね」
「グランドオーダーの特異点は、歴史のターニングポイントが異なる展開を迎えて人理を乱すものだった。でも新宿やセラフィックスは、ターニングポイントじゃなかったどころかそもそも歴史に影響を与える座標じゃなかった」
「そういうこと。そこでこの特異点を、亜種特異点と以降は呼称する」
ダ・ヴィンチが決定した名称はまさにその通りだろうと思った。
人理修復後の安定状態への過渡期である今、魔神柱によって抑止力復帰の隙をついて生まれた人理を狂わせ得る空間。それが亜種特異点である。
また、先日のセラフィックスの事件も、立香と唯斗、アーサー、ガウェインの記憶と証言から、亜種特異点に分類されることになった。
そもそもBBが出現した時点で決定打となっていたわけだが、その軽薄な言動だけでは逆に信じられないのも無理はなく、唯斗たちの証言もあって初めて電脳特異点SE.RA.PHの存在が認定された形だ。
こうして、セラフィックスは1月に解体された事実こそ変わらないものの、本来は魔神柱ゼパルによる特異点化が起きていたと断定されたわけである。
立香はBBの言う「虚数事象」がどういうものかよく分かっていなさそうだったが、しかし亜種特異点は理解しているようだった。
「第七特異点でギルガメッシュ王が言ってた、人理から完全に切り離された空間の事象は正史に影響しないってのと同じようなものかな」
「それに近いな。もちろん、特異点は厳密には実数世界の事象だけど、最終的な着地点が同じだからその認識でもいい」
唯斗が答えると、立香は「分かった」とひとつ頷く。
そう、立香が言う通り、特異点で起きたことは正史に影響しないケースがある。
もともと唯斗たちは、特異点という存在自体、修復されればすべてなかったことになると考えていた。しかしカルデアでは異なる推測が実際にはされており、そしてそれを立香が知ったのは第七特異点でギルガメッシュと話していたときのことだった。
帰還してから唯斗も知ることになったが、一方で時間神殿攻略までは人理が焼却されており証明もできなかったことから、確証が得られたのはつい最近のことである。
第一特異点から第七特異点までで起きた出来事は、すべて、正史に反映されてしまっているのだ。
人理修復が完了されたことで、カルデアはようやく正史の観測ができるようになり、結果、七つの特異点で発生した事象の大半が反映されていることを確認した。
しかしそれは、あくまで「辻褄合わせ」に過ぎず、歴史そのものは変わっていない。
第一特異点や第四特異点では多くの市民が命を落としているが、これは寿命や住民の移動で説明される形となっており、死ぬタイミングが前後するか、もしくは死んだ理由が変わっているかのどちらかだった。
ただ、反映されていない事象もある。それは、第六特異点における獅子王のパレスティナ焼却後、および第七特異点のギルガメッシュ再統治後に起きたものだ。
獅子王アルトリア、そして賢王ギルガメッシュは、ともに正史では存在しないはずの人間である。そのため、彼らが発生した時点で、それ以降の特異点の事象はなかったことになった。
これと同様に、新宿についても、あまりに人理からかけ離れた事象と化したことで完全に切り離されており、立香たちをおびき寄せて殺害しようとしていた魔神柱の企てもあって、人理に影響しない空間となった。
また、SE.RA.PHについては2030年の事象であり、かつBBが虚数化したことで実数域の正史には反映されていない。
ただし、亜種特異点は必ず人理に影響しないということでもないため、次の中央アジアで起きた出来事は正史に反映される可能性がある。その点は心して臨むべきだろう。