伝承地底世界アガルタI−6
すると、さらに別の声とともに新たな人物が出現する。
「待ちたまえ。護衛役が一人だけだと誰が言ったかな」
『サーヴァント反応がもうひとつ…!?秘密裡に2騎もレイシフトさせるなんて、これはボーナスそのものの消失もありえるかと!』
『アウチ!だがデオンの頼みだ、ボーナスぐらいつっこむぜ!』
現れたのはデオン。ムニエルの性癖が垣間見えてしまい、見ていた唯斗とアーサー、アーラシュ、ギルガメッシュはそろって微妙な顔になる。
「では改めて、マスター。護衛はアストルフォだけではないよ。私も同行しよう」
「まともなサーヴァントがいてくれてよかったな、立香」
「ねぇ同じフランスのよしみだよね、唯斗?」
苦笑する立香、ふてくされるアストルフォ。しかしこれで、立香にも2騎のサーヴァントがつくことになった。単純にこれは心強い。
すでに唯斗のサーヴァントとして3騎もいるため、合計5騎ということになる。
とりあえず不思議な出だしとなったが、やることは変わらない。唯斗は右手首の端末に向かって呼びかける。
「それでダ・ヴィンチ、このあとのことだけど。人や都市の反応はあるか?」
『答えはたぶんイエス、とか言えない。実は今、君たちを起点に空間の再観測を行っているんだが、すべての数値が全体的にあやふやなんだ。連続性がないというか…地形や植生の傾向もそう、パッチワークなんだよ。だから魔神柱反応もぼやけてしまった』
このあとの行動を決定するにも、探索はまずコミュニケーション可能な個体との接触や、人の営みの確認などから入る。しかし、ダ・ヴィンチからは煮え切らない回答が返ってきた。
ただ、パッチワーク、というのは唯斗も頷けた。川の流れが自然地形ではないし、生えている木々や花も地域がバラバラに見える。
何より、具体的にここがどこか、というのが特徴を判別できない。
『けれど、君たちを基準観測点とする場合、連続性は保証されるようだ』
「要は自分の足で歩き回ればいいのかな?」
そういうところの理解が速いのが立香である。
平然と言ってのけた立香にさすがのダ・ヴィンチも苦笑しつつ、肯定する。
『そういうこと。幸い、その空間は巨大だが、陸地面積はおそらくそこまでじゃない。湖らしき広大な水場のようなものが観測されているから、空間に対して半分くらいが徒歩で移動できる範囲だと思ってくれ』
そこまでダ・ヴィンチが言ったところで、ずっと黙っていたギルガメッシュがおもむろに口を開いた。
「であれば、何もこの人数で行動することもあるまい。マスター二人はそれぞれ分かれて行動するべきであろう」
『しかしギルガメッシュ王、先輩にはキャスタークラスがいない以上、防御や治癒が…』
「だからどうした。そのような場面、今までもこれからも、いくらでもあろう」
同行できない分、マシュは心配性を発症しているようだったが、ギルガメッシュはすげなく返した。確かに、立香に完全な防衛手段がなくなる状態でこのレベルの特異点探索を行うのは初めてのことになる。
もちろん、イレギュラーだった新宿とSE.RA.PHは別としてだ。
「まぁ、合理的ではあるな」
「うん、俺も賛成。マシュ、索敵だけ入念にお願い。接近があったらすぐ知らせて」
『…了解しました。お二人がそうおっしゃるなら、マシュ・キリエライト、全力で先輩周辺の安全確保にあたります。唯斗さんは大丈夫でしょうか?』
「あぁ、俺のことはいいから立香に専念してくれ。立香、俺は川沿いに下ってみる」
「了解。じゃあ俺は…」
「それならボクの勘に任せて!うーん、こっち!」
早速アストルフォが話も聞かずに走り出す。有無を言わさず、立香の行動ルートも決まってしまった。
立香は肩を竦めて、デオンとともにそちらに足を向けた。
「じゃあまたあとでね、唯斗」
「あぁ」
こうして、立香は丘の方へ、唯斗は川の方へと向かう形で別れ、特異点探索が始まった。何もかもが特殊なこの特異点だが、一方で出だしは非常に落ち着いたものとなった。