伝承地底世界アガルタI−8
木製の檻の中に閉じ込められているのは、男性だ。さらに、その男性たちは現代風の服を着ている者もいる。見たところ年代や人種はバラバラだが、ほとんどが現代人に見えた。
「……理由は分からないけど、まぁ、助けるしかねぇな」
「そうだね」
「して、どうする。突っ込むか?」
後ろからギルガメッシュが問いかける。それでも押し通せる戦力ではあるが、あの女性兵士たちの力も不明瞭だ。
「ダ・ヴィンチ、あの女性兵士のデータは」
『ちょうど観測結果が出たところさ。取り急ぎ、アマゾネスという君の見立てで呼称しよう。正確なところは分からないがね。データとしては、うん、生身の人間ではないね。殺傷しても平気なエネミーだ』
『先輩もちょうど仮称アマゾネスとの会敵に入ったところです』
「了解」
立香もアマゾネスと遭遇したようだ。間違いなく立香も、捕まっているであろう男性たちの救出に入るはず。
「最優先は捕まっている男性たちの人命だ、敵性体は倒しきれなくてもいいけど…いや、この地域に散会してる他の集団がいるなら少し面倒だ、殲滅させる」
敵性体の数は50、要救助者は30人ほど。一瞬で済ませれば守り切れるだろう。
「アーサーはここからキャンプを挟んで反対側で陽動。アーラシュはアーサーの迎撃に応じてない個体を倒しながらキャンプ内を捜索して人々を救出。俺とギルガメッシュで大勢が集められてる区画で人々の解放と集積・保護、かつ索敵」
「了解、行ってくるね」
アーサーは頷いてすぐに走り出す。迷彩魔術の効果が出ている間に移動を終えたアーサーは、早速反対側で大仰に戦闘を開始した。
途端に爆風が上空に噴き上げ、衝撃波が空気を揺らす。怒声が響き、アマゾネスたちはアーサーの迎撃に向かった。
「よし、アーラシュ行動開始。ギルガメッシュ、俺たちも行こう」
「了解!」
「うむ」
アーラシュは唯斗たちとは別方向に走り出し、唯斗とギルガメッシュは男性たちが捕らえられた檻の並ぶ場所に走る。同時に、ギルガメッシュは檻の警備に当たるアマゾネスたちを一瞬で魔杖によってかき消した。
「消失した…エーテル体か…?」
「そのようだ。この空間で発生した魔術性の個体だろう」
ギルガメッシュの魔杖の光線で倒された女性たちは消えていき、死体は残らない。シャドウサーヴァントではないが、同じようなエーテル体らしい。
唯斗は檻の扉を破壊して、中に閉じ込められていた人々を救出しつつ、英語で問いかける。
「誰か言葉の通じるやつは」
「助けてくれてありがとう、俺が説明する」
唯斗の呼びかけに答えたのは、トルコ系の男性だった。白い肌で、普通のTシャツとジーンズという姿だ。
男性は他の男たちが震えながら檻から出てくるのを見つつ、唯斗の前にやってきた。
「なんで捕まってたんだ?」
「奴隷だよ。あいつらは、俺たち男を奴隷としてモノのように扱ってたんだ…!信じられない、こんな訳のわからない場所に迷い込んだのも、全部!」
「どうやってここに?」
「よく分からないんだ。気がついたら、ここに落ちていた。目が覚めたらこの地下世界にいて、そして、よく分からないうちにあいつらに捕まって…」
「出身は?」
「キルギス。首都のビシュケクにいたんだ」
驚いたことに、この男性たちはみな、地上からこの特異点に吸い寄せられてきたらしい。落下したとは言っているが、文字通りの落下ではなく、サーヴァントが召喚されるのと同じ原理でやってくるのだろう。
中央アジアのキルギス、その首都ビシュケクは、天山山脈のふもとに位置する都市であり、ちょうどこの特異点からもそれなりに近い。
やたら日本人に似ていると思ったが、やはりキルギス人のようだ。キルギス人は、ハザーラ人、ブータン人と並んで日本人に極めて似ている遺伝子を持った人種である。
この特異点は、外界から隔絶された新宿や、深海を降下していたSE.RA.PHとは違い、正史の世界と地続きだ。そのため、こうして2000年の中央アジアに暮らす人々が稀に吸い込まれてしまうようだった。
「それにしても、さっきいったいどうやって倒したんだ…?あの光…それに、さっきからしているあの爆発、軍でも出動しているのか?中国軍でもインド軍でも」
「あー……まぁ、全部悪い夢だ。覚めるまで時間がかかるだけの、夢だと思っててくれ」
恐らく特異点が修復されれば、少なくとも記憶はなくなるはずだ。そのため、修復を完了すれば神秘が薄まってしまうことはない。しかし、この状況が固定化されてしまえば、神秘が薄れることもあり得るだろう。